パーティシーズンに、東京一クールなatoの新定番スーツ

この評価は筆者が独占的に考えているわけではない。というのも、2016AWの伊勢丹メンズ館の展示会で、2階の売り場を長年担当するバイヤー氏が、クリエーターズ系ブランドのアーカイブ・スーツを回顧する特集を組んでいた。その際、もっとも目立つ展示会のど真ん中に、アトウのメスジャケット風スーツを飾っていたからだ。彼も筆者と同じ評価なのだと思う。

アトウには定番のスーツが1型ある。それは、シングルブレストのローツー(低い位置の2個ボタン)で、浅いサイドベンツ入り。

ato 17SS collection
Photo:ato

このサイドベンツが独特で、上着の裾よりほんの少し長く作られており、これがアトウのアイデンティティーになっている。

筆者は、このディテールを単なるデザイン的な遊びだとは考えていない。スーツは斜め後ろ45度から見て格好よくなくてはいけない。前身を短くすれば足長に見せることは容易に可能だ。しかし、その着丈のバランスのままで後ろ身を作ると、後ろ姿が凡庸になってしまう。上着の裾より長くしたサイドベンツは、歩くたびに布がゆらぎ、非凡なエレガントさを生み出す。同時に、日本人の体型的な欠点もカバーしている、と筆者は勝手に解釈しているのである。

Photo:Shuhei Toyama

このようにアトウのスーツは独自の工夫がなされ、しかも手間のかかる立体裁断によってトワルを何回も組み直して生み出されるから、完成度がすごく高いのだ。

モード逍遥#19>で筆者は、「優れた服地はトップ染めに限る」などと書いたが、こうしたクラシコ・マニアの固定化した美意識を覆してくれるのも、デザイナーズスーツの役割であろう。

アトウ・スーツの定番服地として使用される、スーパー120ウールを100番手双糸に織ったプレミアムな黒いウール・ギャバジンは、なんと後染めだという。理由は、生地に織り上げてから染めるほうが、アトウらしいディープな黒になるから。また、良い生地を後染めにすると、生地に付着していた不純物が取れて、よりソフトな着心地の服地に仕上がるからだという。

長所ばかり挙げているが、事実だから仕方がない。しかし提灯記事と思われるのも癪だから、文句も書かせて戴く。