米軍放出のM-43フィールドジャケットを着こなす男、アンジェイ・ワイダ監督の『灰とダイヤモンド』をファッション映画として観る!?

モード逍遥#20

ファッション雑誌が現在のようにたくさん発刊されていなかった頃、着こなしの情報は映画から取り入れることが多かった。

そのため、業界関係者は特殊な映画通が少なくない。“特殊”と断り書きしたのは、映画の題名やストーリーはほとんど記憶にない代わりに、特定の場面の俳優の着こなしだけはディテールまで明確に覚えているからだ。

そんな不思議な人々の会話を採録するとこのようになる。

「あの映画なんて言ったけ、ほらオードリー・ヘップバーンがファッションモデル役の? たしかリチャード・アヴェドンっぽい役がフレッド・アステアでさ、白いステンカラーコートに赤いライニングの着こなし、格好よかったよねぇ」(映画の題名は『パリの恋人』)というのは、まだましなほう。

ひどいのになると、「こんどアレを企画に廻しておいて。ほらクラーク・ゲーブルが新聞記者役で着てたジャケットだよ」。「おう、ワカッタ! 背中にベルトがついてる奴ね」(映画の題名は『或る夜の出来事』)。これが商品会議の会話なのだから、素人は近寄らないほうが無難だ。

なぜこんなことを書き始めたのかというと、2016年10月9日にアンジェイ・ワイダ氏が亡くなったというニュースを読んだからである。ワイダ氏はポーランドの映画監督。なかでも『灰とダイヤモンド』は、筆者のもっとも好きな映画のひとつだった。

『灰とダイヤモンド』(Photo:Byron編集部)

この映画は、60年代安保の全学連に支持を受けた伝説の名作と言われていたが、軟派系優しいサヨクだった筆者が観たのは1970年代初頭。都内の場末の名画座だった。

東欧映画だから、娯楽性の少ない退屈なモノだろうと思って観たら大間違い。切れのあるストーリー展開と驚きの映像美を満載した、たった4日間だけの青春恋愛ドラマ。つまり、共産圏のヌーベルバーグだったのである。

おそらく、アンジェイ・ワイダ特集が組まれ、代表作である『灰とダイヤモンド』もどこかで再映するだろうから、詳しいストーリーには触れないでおくが、映画が出てきた背景だけは記しておこう。

第二次世界大戦中のポーランドには市民ゲリラ(地下抵抗組織)が存在していた。彼らはワルシャワで蜂起してナチスと戦うが、ソ連はすぐそばまで進軍していながら、彼らを支援しなかったために、多くの市民が犠牲になった。というのは、ポーランドを共産化しようと目論むスターリンにとって、英米寄りの市民ゲリラは邪魔な存在であったから、あえて彼らを見殺しにしたのである。

ズグニェフ・チブルスキーという天才的な男優によって演じられた主人公マチェックは、そんな市民ゲリラの生き残りで、ポーランド労働党の要人を暗殺するためのテロリストとして登場する。