“暴挙”“愚行”!? 誰がためにファッションショーはあるのか

砂漠のような東京でも…
週刊ファッション日記 #30

美しいモデルがランウェイ(高く長い台)の上を音楽に合わせて最新コレクション(一般的には半年後に消費者が着始めるもの)を身にまとい闊歩するのがファッションショーである。

ファッション業界のシンボルといってもいいだろう。ランウェイショーとも呼ばれる。誰が言い出したのか、モデルの歩く姿が「猫」に似ているからキャットウォーク・ショーとも言う。

フランス語だとデフィレ(原義は行進)。高い台がなくて、観客が座っているフロアをモデルが歩く場合はフロアショーと呼んだりする。一番前の列(ファーストロウ)に座っているのはジャーナリストやバイヤーなどの招待者の中でも特に重要度が高い人々である。

ショー会場に入るとそのブランドのアタッシェド・プレス(プレス=報道陣と向き合うという意味だが、日本ではなぜか略してプレスなどと呼ばれている)が来場者をしかるべき席に案内する。

ある時、第2列目の席に案内されたジャーナリストが憮然として、ショーも見ずにすぐに帰ってしまったなどという「事件」が起こる。

当然のことながら、このプライドをいたく傷つけられたジャーナリストはこのブランドのショーのことを一切書かなかったし、それ以降ことあるごとにそのブランドの悪口を書くようになる。

逆に、別のブランドの話だが、そのブランドのファッションショーの出来が良くなかったと書いたジャーナリストにはそれ以降、ショーの招待状が来なくなったし、その媒体にはそのブランドの広告が一切入らなくなった。当然のことである。

彼らには、自分たちのファッションショーを褒めてくれるジャーナリストと媒体以外は必要ないのである。私もショーの批評を書く時の重要なポイントについて先輩からひとつだけアドバイスをもらった。「絶対に悪く書くな! 悪いショーだと思ったら一文もそれについて書くな」。なぜなら、批評されないということは無視ではないからだ。

「他とはレベルが違い過ぎて掲載すると他のブランドが惨めに見えてしまうので」と不掲載の言いわけをしていた担当営業マンがいた。私などは何事につけて褒めるというのが苦手で、何事につけて欠点ばかりが見えてくるのでこうした商売には本来向いていないのであるが、多少のトラブルは仕方ないにしても、35年近くやって来られたのは「無視の効能」というのを諸先輩から早い時期から叩き込まれたおかげであろう。

さて、メルセデス・ベンツ日本に代わって新しいスポンサーになったアマゾン ジャパン合同会社が冠スポンサーになって「Amazon Fashion Week TOKYO(アマゾンファッションウィーク東京)」に変更になったのが、今回の東京コレクションだ(10月17日~10月21日)。

名前が代わったから内容がすぐに変わるわけもないが、その中で今回は、10ブランドほどのショーを観た。

その中で最も観客が多かった(1,000人はいただろう)のが招待ブランドの「コーシェ バイ H ビューティ&ユース」のストリート・ショー(10月19日)だ。場所は原宿通り。

原宿通りでストリート・ショーを行った「コーシェ バイ H ビューティ&ユース」
原宿通りでストリート・ショーを行った「コーシェ バイ H ビューティ&ユース」

昔はとんちゃん通りと言ったものだが、もうその「とんちゃん」というヤキトン屋がなくなってしまったから、原宿通りなどという訳の分からない名前になってしまった。

それはともかくストリート・ショーというが、要するに100メートルほどの細い通りで素人モデルがほとんどのファッションショーを敢行したのである。日本ファッション・ウィーク推進機構からの招待ブランドであるし、現在のところ日本での唯一の取扱先であり今回ショーに登場した洋服のコラボ先でもあるこの界隈の主、ユナイテッドアローズの強烈なプッシュがあったからこそ実現できた「暴挙」だと思う。

原宿通りの洋食屋ROMYの窓からストリート・ショーを怪訝な顔で見ているオバさん
原宿通りの洋食屋ROMMYの窓からストリート・ショーを怪訝な顔で見ているオバさん

パリコレ(9月27日)ではレ・アールのショッピングセンターでファッションショー(ブランドは「コーシェ」)を開催した。デザイナーのクリスタル・コーシェによると、「特定の人々だけでなく、より多くの人々に私のショーを見てもらいたかった。モデルもプロではなくリアリティのある一般の人々を主に起用した。」とのこと。

代官山のカラート71で開催されたトークセッション。日仏の期待のデザイナーということで 落合宏理とクリスタル・コーシェが登壇
代官山のカラート71で開催されたトークセッション。日仏の期待のデザイナーということで
落合宏理とクリスタル・コーシェが登壇

本来ショーというのは、ジャーナリストと小売店のバイヤーのために開かれるものだ。それだけのためなら観客は200人程度で十分。ちゃんとディテールや服の雰囲気をきちんと見られるのは、会場のせいぜい2列目の席まで。

しっかりした商売がしたいのならそうしたショーをやるべきではないのだろうか。やたらと彼女は「デモクラティック(民主的)」「リアル」という言葉を使う。

たしかに、王妃マリー・アントワネットがファッションの女王だった時代からすればファッションはデモクラティックになった。

しかし、コーシェが作るのはTシャツで2万円するようなファッションなのである。富の偏在が進む現代の格差社会に対峙するような問題意識が彼女の内面にあるのはよくわかるし、共感するが、それがこのストリート・ショーというような愚行に現れているのだとすればそれは少しばかり安易すぎはしないだろうか。