“冷やおろし”は、ボジョレーヌーヴォーのように秋口にいっせいに店頭に並ぶ

佐渡からの日本酒通信 #14

“冷やおろし”は、ボジョレーヌーヴォーのように秋口にいっせいに店頭に並ぶ

温暖化の影響なのか、もはや「熱い」と唸りたくなるような亜熱帯ばりの夏が終わり、秋がやって来ました。日本が紅葉色に衣替えするこの季節、日本酒の世界でも美しく衣替えするお酒があります。それは「冷おろし」。

秋口にいっせいに店頭に居並ぶ「冷やおろし」は、ワインであればボジョレーヌーボーのようなもの。毎年その解禁日(時期はそれぞれの蔵によりますが)をお待ちの方も多いでしょう。

冬から春先に搾ったお酒を一度火入れして酵母の働きを止め、その後暑い夏の間ひんやりとした仕込み蔵の中でゆっくりと熟成させ、秋口に生詰めのまま出荷する。すなわち外気温が冷えてから卸す、それが「冷やおろし」の定義です。別名を「秋あがり」。その言葉通り、秋になって飲み頃を迎える旬のお酒です。

搾ったばかりのお酒は、いわば新調したばかりで糊の利いたリネンのシャツのようなもの。形がパリッと決まって主張も強く、時に肌にチクチクするような荒々しさを伴います。それが着回しているうちに柔らかい風合いが出てくる。何度洗ってもくずれない素材の良さがあってこそ出せる風合いです。

「冷やおろし」もそんな変化を経たお酒です。「荒ばしり」と呼ばれる搾ったばかりのお酒によく見られる尖った固さが取れて丸くなり、独特の味わいが生まれます。飲み頃の酒っていうのは、まさに肌に馴染むような味わいなのでありますね。

酒を整えたら、肴の出番でございます。

秋と言えば松茸、サンマ、栗、さつまいも……どれも滋味と呼ぶにふさわしい。さらに旬を迎えた食材はその栄養価も高く、夏の間、冷房に当たって疲れた体には薬の役目も果たしてくれます。

冷えきった体に暖かさがホッコリするように、秋の食材も火を通すと美味しさが倍増します。焼き松茸と焼きサンマにジュッとスダチをひとふり、焼き栗、焼きイモ……想像しただけでも香ばしい香りが鼻を刺激して止みません。

どうして熱を加えると美味しくなるのでしょう? それはメイラード反応と呼ばれる化学反応が起こるから。食材の中にある糖とアミノ酸が結合することにより、様々な反応を起こして茶色く着色したり、芳ばしい香りの成分が生まれたりするのです。

焼きサンマはもちろん、ステーキやトースト、焼きおにぎり等をイメージするとわかりやすいかと思います。日々身近なところで起きているのです。

特筆すべきは、このメイラード反応なるものは日本酒にも起きるということです。そう、常温でも時間をかけながらその変化は少しずつ進みます。であるからこそ、秋まで熟成した「冷やおろし」には、独特の熟成感、芳ばしさを見出すことが多いのです。

ちなみに私は若い頃には、「冷やおろし」の美味しさに気付くことがなかったように思います。まだまだ荒ばしっていたということでしょう。今、年齢を重ねて熟成の魅力を堪能できるようになったのも、体内で数多くのメイラード反応が起きたおかげかもしれません。年々体は硬くなる一方ですが、いずれ柔らかな風合いも出てくるに違いない……。

人生も「晩秋旨酒」でいきたいものです。

Photo:dorry / PIXTA(ピクスタ)