なにしろ機械式狂いなもので #22
美術品や工芸品はもちろんのこと、工業製品であっても、その価値が広く認められると、贋作や模造品で一儲けけをたくらむ、よこしまな人間が表れるのは、昔から変わらぬ世の常である。
最近では、高級時計のモデル名をGoogleなどで検索すると、コピー販売のサイトが上位にヒットして、ブランドを悩ませている。粗悪なコピー時計は、実は19世紀からあった。
当時、スイス・ジュネーブで作られるムーブメントが、優れた機能と審美性とで世界的に評価されていた。すると、ジュネーブ製を騙るムーブメントが、市場にあふれ始めたのだ。その対策として1886年11月6日、ジュネーブ州の州会議で定められたのが、このコラム第8回で述べたジュネーブ・シールだ。
ブリッジには面取りと手作業による装飾、くり形面にはポリッシュ仕上げ、溝には面取りを施すことといったパーツの仕上げや、ひげゼンマイを留めるためのひげ持ちの特性、インデックスの種類、ガンギ車の厚さといったパーツの特性などに関する12の項目を規定。
これらに合致したムーブメントには、ジュネーブ州の紋章をブリッジに刻印することで、その正統性を保障し、また保護してきた。さらに2013年6月からは、
1.すべて手作りであること
2.ケースにムーブメントを入れた状態で精度、防水性、パワーリザーブ、各種機能の4項目をテストすること。
3.ジュネーブの民間研究所タイムラボによる独自のプログラムに従って客観的にテストを行うこと。
の3項目が加わった、新ジュネーブ・シールに完全移行し、より厳格な品質保証がなされるようになった。長く審美性に重点を置き、明確な精度規定を伴ってこなかったジュネーブ・シールが、時計精度にまで踏み込んだのだ。