モリッツ・グロスマンの世界一美しい針!? 1セットを仕上げるのになんと丸1日

なにしろ機械式狂いなもので #20

1989年11月9日、国を東西に隔てていた壁が、民衆の手によって破壊された。第二次世界大戦後の東西冷戦終結を象徴するベルリンの壁の崩壊は、20世紀を語る上で欠かせぬ重要な史実だ。それは同時に時計の歴史にも大きな意味を持つ。東西ドイツの統一によって、東側に位置していたドイツ時計産業の中心地グラスヒュッテが、高級時計の聖地として再興したからだ。

1845年、このコラムの#4に登場する旧ザクセン王国宮廷時計師だったフィルディナンド・アドルフ・ランゲによってグラスヒュッテにもたらされた時計産業は、19世紀末から20世紀初頭に隆盛を極め、時計業界をリードしていた。

しかし冷戦下では、グラスヒュッテのすべての時計産業はG.U.B.と名付けられた国営企業に吸収されてしまった。それが東西統一後の1990年に民営化され、以降、いくつもの時計ブランドが創業・再興。今では12もの時計ブランドが、グラスヒュッテに集結するに至った。

その中で、世界中の時計コレクターの耳目を集めているのが《モリッツ・グロスマン》である。創業は2008年。ブランドの歴史こそ浅いが、その名のルーツは、グラスヒュッテの時計産業の始まりにまで遡れる。

ランゲと並んで、黎明期を支えた優秀な時計師の名であり、時計学校の初代校長を務め、時計技術に関する著書や翻訳を数多く残すなど、後進の指導にも熱心であったという。現代に蘇ったモリッツ・グロスマンの時計は、そんな偉人の名を冠するにふさわしい、19世紀当時と同じ徹底した手仕上げに情熱が傾けられている。