日本酒にも「テロワール」がある!?

きっかけは最近海外から佐渡にやって来た知り合いのソムリエです。酒造りを知りたいとやって来た彼に、仕込み蔵、田圃や山を案内し、海沿いに建つ景色の良いカフェでコーヒーを飲んでいた時のこと。陽光とそよ風を気持ち良さそうに受けながら、彼はおもむろに「これこそが、佐渡のテロワールだ」と語ったのでございます。

私は、それは佐渡の気候風土のことを言っているのかと聞いてみました。すると、「ちょっと違う」と言うのです。どうも気候風土という現象や状態のことだけではないらしい。どうも「テロワール」という言葉を一言で翻訳するのは難しいようでございます。

そう言われてふと考えると、逆バージョンのいろんな言葉が頭に浮かんでまいりました。「いただきます」「ごちそうさま」「もったいない」……。これらの日本語をピッタリ一言で外国の言葉で表現するのは難しいように思います。

逆に言えば、これらの翻訳出来ない言葉にこそ、日本人の日本人らしさが表れているのではないかとも感じてくるのであります。それは概念というか、肌感覚でまとっているモノの捉え方。誰の中にも自然発生的に湧いてくる念とでも言いますか。

再びあの時のカフェを訪ね、無心になって同じように山からの風、海からの風を受け、島の空気に身を委ねてみました。そこで感じたのは、ごく当たり前に身の回りにある山や太陽、水、すべての自然への畏敬の念であり、感謝でありました。これこそが、お酒造りの源です。

「テロワール」。この神秘的な言葉を日本酒に当てはめ言葉を解くことは、あまり意味がないのかもしれません。私たちはずっと昔からこの土地に蔵を構え、八百万の神が宿る大自然と共に生き、発酵という力を得て酒という恵みを頂いてまいりました。

それはまさに、この土地との共存の歴史と言えましょう。大事なことは、酒を生み育むこの地の風土に感謝と誇りの念を持ち、その価値を追求する終わりのない旅そのものにあるのではないか。そのように思えてきている私です。

Photo:越山 / PIXTA(ピクスタ)