デコトラ舞台が日本中を駆け巡る、やなぎみわの演劇プロジェクト「日輪の翼」

アートうたかたの記 #6

現代日本を代表するアーティストのひとり、美術家・演出家のやなぎみわが、3年越しの悲願を成し遂げた。

中上健次のロードノベル「日輪の翼」の物語に魅せられた彼女は、小説の設定そのままに大型トレーラーで繰り広げられる型破りの旅芝居を企てる。

そして台湾で出合った“走るキャバレー”移動舞台車を購入。台湾の地方都市・虎尾の小さな工場に特注する。

©Miwa Yanagi STP.

想像を絶する面倒さであろう通関手続きを踏んで輸入したステージトレーラーを、まずは「ヨコハマトリエンナーレ2014」でお披露目。2015年には「京都国際芸術祭 PARASOPHIE」に出展し、オープニングでは夕暮れの二条城を背に、華麗なポールダンスのパフォーマンスを見せた。

パラソフィア京都国際現代芸術祭における二条城でのイベント風景 2015 年3月6日
撮影:表恒匡

壮大な計画の賛同者を求めて企業や美術館、劇場を回り、京都で自身のバーをオープンするなど資金集めに奔走。

日本の公道を走行するための試行を重ねた末、ついに今年KAAT主催公演を皮切りに全国ツアーが実現。日本初のデコトラ演劇が列島を駆けめぐることとなった。

会場となった横浜赤レンガ倉庫広場は港湾地区で、一般の公共空間以上に規制が厳しい。悪天候に見舞われ、ゲネプロ(通し稽古)もままならないうち雨天の初日を迎えたという。

2日目に行くと、強風のためステージを完全に立ち上げることができず、クレーンを使った空中芸も中止と発表された。それでも遜色のない仕上がりだったが、満を持して楽日にも再び訪れた。

photo by bozzo
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荷台の背がおごそかに立ち上がったときの情景は忘れられない。大輪の夏芙蓉の花が艶やかにペイントされ、大阪西成名物のスーパー玉出を思い出させる、けばけばしく光輝く舞台が出現する。

照明家・藤本隆行 (ダムタイプ)の安定の“マジック”で、無限に変化するイルミネーションが、舞台車を地獄絵にも満点星にも桃源郷にも豹変させる。それは豪奢な花火のように幻惑的で抗いがたく、全編にわたり目をそらすことができなかった。

photo by bozzo
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そこで繰り広げられるのは、エロスと信仰と生贄に彩られた、お遍路さんの道行きだ。熊野から伊勢、諏訪、一ノ宮、恐山、そして皇居へ。和歌山新宮の「路地」を追われた5人の「オバ」と血気盛んな若衆たちが、盗んだバイクならぬ冷凍トレーラーを駆り、全国の聖地を巡礼する。

みなとみらいの長閑な休日の広場に木霊する、いかがわしいハコバンの演奏、和歌山弁の生々しい響き、大らかな性の饗宴、強靭な身体能力で圧倒するポールダンスや空中サーカス、楽隊を引き締めるタップミュージシャンSAROのキレ、そしてオバたちの見事な三味線と唄。

日本人が慣れ親しんだ芸能神事の原初に立ち戻るような、荒削りな猥雑さを残した歌舞音曲に導かれ、前代未聞の演劇プロジェクトは旅立った。