なぜファッション企業のオーナーたちはアートに魅せられるのか!?

砂漠のような東京でも…週刊ファッション日記 #20

今から25年ほど前のことである。大阪本社のファッション企業の創業者兼会長に招かれて、その会長室に通されたことがある。本社ビルではなく、そのすぐ近くにある小さなビルの最上階である。

その部屋の左の壁にはシャガールの50号ほどの油絵が掛かっている。尋ねるまでもなく本物であろう。私がその絵をシゲシゲと眺めていると「ホンマモンですよ。絵、お好きですか?」と言って、立ち上がり右側の壁の本棚の隠しボタンを押した。

すると、その本棚が左右に音もなく開いて、その奥にいわゆる泰西名画と呼ばれる絵が10点ほど壁に掛かった部屋が現れた。秘密の私設美術館と言っていい部屋だ。ルノワールとかコローとかモネといった私のような素人でも作者がわかるような絵ばかりである。

ファッションでも本物志向の会長であるから、贋作や複製であるわけはなかろう。だとすると合わせると100億円はゆうにするのではないか。自分の金で買ったのか? 会社の金で買ったのか? いずれにしても同じことだと考えているのであろう。どうも、この秘密部屋を見せられたということは、私はかなり信用されているということだろう。意味もなく、柄にもなくちょっと緊張したのを覚えている。

「この絵をパナマに運んでもらえまへんか?」と言い出しそうな雰囲気だったのである。もちろんそんな話ではなく、齢80をとっくの昔に超えた会長は、その名画たちがどれだけ値上がりしているかを延々と話し続けた。もちろん専門のアドバイザーはいるのだろうが、名画の売買は本業以上に儲かるらしい。

あれから25年。時代はめぐるのか、ファッション業界の若き(といっても40歳代から60歳代前半だが)経営者たちの絵画収集が話題になっている。20年前と違うのは、ラファエロやゴッホなどのいわゆる泰西名画ではなく現代美術が対象であること。中には収集だけにとどまらずその振興や若き芸術家の育成を目的にしている経営者がいることだ。