リアルカスタマーではなく、「シリアスカスタマー!?」のためのワードローブ

かつて英国領だった国際的なフリーポートにはアーモリー(ARMOURY)という売り出し中セレクトショップがある。この店のスタッフは、幼い頃から英国紳士のスタイルを見て育ってきただけに、クラシックなテイストを頑固に身につけているのだと思う。また香港や上海などは、かつて租界であったために、街の景観にスーツ姿がマッチするのも大きい。

『A HISTORY OF MENS FASHION』(Flammarion)

彼らは豪語する。「日本のセレクトショップが相手にするのはリアルカスタマーだろう、ぼくらの店はシリアスカスタマーのためにワードローブを揃えている」。

今、メンズドレス店の良否は、どんなタイプのトラウザースを揃えているかである程度判断できる。股上の長さは、ミディアムかハイライズで、後者の場合は1本か2本のプリーツ入りが望ましい。またテーパードされた裾幅も重要だ。

かつてエドワード・グリーンの202には、裾幅19センチのトラウザースがベストマッチするという黄金律が存在したように、店が推奨し販売しているクラシックな靴の全長とトラウザースの裾幅が計画的であることが大切だ。アーモリーはその点も合格で、良いとなれば高額なナポリのオーダーメイドパンツを仕入れるなど、攻めの買い付けは目は見張るほどである。

アーモリーは最近グランドセイコーのフェアを開催した。ラインアップしたのは新型だけでなく、1960年代に作られた旧型モデルまで。彼らは、かつて精工舎の工場が生み出したムーブメントが、スイス・ニューテーシャル天文台におけるクロノメーター・コンクールでスイスの誇る精密時計ブランドを抑え好成績をおさめた歴史まで調べているのだ。

顧客にだけ秘蔵の情報を提供する。格好イイではないか。

先日ユナイテッドアローズの秋冬展示会に行ったら、クラシックなチェック柄のバルマカーンコートが飾られていた。カモシタ・ユナイテッドアローズのそれは、なんとラグラン袖が1枚仕立てなのである。2枚パーツ、3枚パーツのラグランは普通に見かけるが、1枚ラグランは生地の用尺が増えるし、パターンも難しい。

そのコートが持つ雰囲気はファッション写真集などで見かけるウインザー公のスタイル(写真)を彷彿させて、すごく感心してしまった。

日本のセレクトショップには、優秀な企画者&技術陣は健在である。セレクトショップのドレス市場にシリアスな客を再び呼び戻すには、顧客主導でなく、洋服のプロフェッショナル主導で、流行に迎合せずに進化するクラシックなアイデアを提供し続けることに尽きる。これまで日本は、そのアイディアソースをピッティに頼り過ぎていたのではないか。

そのツケを振り払って、香港の連中を見返してほしい。