購入した人の体型に合わせて工場で作り直す工賃を含むのが、ラグジュアリーなスーツの常識である

高級既製服の、自社工場によるフィッティングサービスは、ヨーロッパでは普通に行われてきたようだ。その証拠に、80年代初頭、ロンドンのハンツマンで筆者の友人がチェスターバリーのスーツを購入したとき、同じサービスを甘受したことがあったからだ。

しかしながら販売店と工場が数千キロも離れている日本では無理な話。同じ高額なスーツを購入しながらも、極東に住む消費者は不利な立場にあった。ところが、その不平等な取引に改革の狼煙をあげたのは、アジア圏の消費者でなく、高級既製服製造メーカー自身だったのである。

「我々は世界中どこに住むお客様にも同じサービスを提供したい」

こうしたコンセプトを基に開発されたのがス・ミズーラという新しいメイド トウ メジャーシステムだった。ス・ミズーラは、遠く離れた顧客にも完璧なフィッティングサービスを満喫してもらうために考えだされた。

顧客の体型データはすべてパソコン上で管理される。開発当初は袖丈、裾丈などのお直しにすぎなかったが、CADシステム(パソコンによるパターン設計)の進化によって、怒り肩、なで肩、反り身、屈身体など前後左右の体型バランスを調整することが可能になっている。その技術レベル向上のスピードは目を見張るほどだ。

とはいえス・ミズーラには手付かずのことがひとつだけ残っている。それが仮縫いだ。仮縫いとは、各パーツをしつけ糸でスーツの形に仮組してから客に袖を通してもらい、具合の悪い部分があればしつけ糸をほどき、その場でチャコやピンでしるしをつけて補正する作業のことである。仮縫いは、採寸だけでは把握できない人体の微妙な曲線を検証するだけでなく、出来上がりのイメージを分かりやすく顧客に伝達できるメイド トウ オーダーだからこその工程であった。

ブリオーニが新たに開発したスマートビスポークは、ス・ミズーラに初めて仮縫いを取り入れた画期的なシステム。この9月14日から26日まで伊勢丹メンズ館では、本国に数人しかいないマスターテーラーが来日し、補佐につく2人のテーラーとともに受注会を開催するという。さらにイベントの特別なデモンストレーションとして、その場で採寸、生地に直接パターンを描き裁断、その後に芯据をし、わずか2時間で仮縫い(通常は2週間を要する)を完了させる妙技まで見せてくれるらしい。

スマートビスポークの特長は、客が選んだ生地でなく、それに良く似た生地で仮縫いするから、フィッティング時のデザイン変更や生地のカットも惜し気なく大胆に行える。

また気鋭のマスターテーラー、アンジェロ・ペトルッチ氏(予定)による仮縫いもめったにできない素晴らしい体験になるはずだ。体型把握などに関して天才的な感覚を発揮する名人だけにアート・オブ・テーラーリングの神髄を披露してくれることだろう。しかもそれが通常のス・ミズーラに1万9,711円のアップチャージを加えるだけ。

スマートビスポークは、ブリオーニが日頃培ってきた、手作りの分業システムによる生産技術や、テーラーを育成するための学校を設立するといった歴史があってこそ可能な、真にラクジュアリーなサービスである。