購入した人の体型に合わせて工場で作り直す工賃を含むのが、ラグジュアリーなスーツの常識である

モード逍遥 #2

高級既製スーツの最高峰といえばブリオーニ、アットリーニ、キートンといったローマやナポリのメーカーである。これらのブランドは、1980年代に一世を風靡したアルマーニ、ベルサーチ、フェレといったデザイナーズブランドと入れ違うようにして、1990年代にクラシコイタリアブームを引き起こした。

しかし筆者が取材を始めた80年代後半は、まだ日本での認知度が低く、特別に服好きな店長がいる一部のメンズクロージングストアだけが、なかば趣味のようにこうした高額スーツ(当時で30から40万ほど)を少量だけ扱っていたのである。

筆者はそんな店のシンパであったがゆえに、当時書くことをためらったことがひとつだけあった。

それを知ったのは、ミラノの某ショップで御3家ブランドのひとつを見つけたときだった。しかし気に入ったスーツは、サイズがひとつ大きめ。あきらめて帰ろうとしたときに店員が声をかけてきた。袖丈、ウエストの調整だけでなく、肩やボディまわりの寸法直しをしてくれるというのである。

「このスーツを作っているナポリの工場に送って一度バラバラにしてから作り直すのでフィットはパーフェクトになる。ただし出来上がるまで3週間ほど必要だ」

数日後に帰国するので残念ながら購入しなかったが、筆者には別れぎわに彼が言った言葉が忘れられない。

「なんでこのスーツが飛び抜けて高額だと思う? 理由はお直しの工賃が売値に含まれているからさ。購入した人のサイズに合わせて工場が作り直す。それがラクジュアリーなスーツを買ってくれたお客様に対する当然のサービスってもんだろう」