旅する万年筆

旅する万年筆

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受け継いだ万年筆は、祖父が亡くなってから長いこと使われずに箱の中で眠っていた。

祖父の名前が彫られた万年筆は吸引式タイプで、筒のなかでインクが固まっている様子。店で相談すると、生産地ドイツの職人にみてもらわないとわからないとのこと。ややこしいことに、筒が使えないとなると新しいものに交換することになり、その際、もとの筒は処分するという規則だという。

ということは、祖父のものであったという記憶がなくなってしまう可能性もある。それでは元も子もないので、筒がそのまま使えないようであれば、修理しなくて良いとお願いして店を出た。

万年筆がドイツに旅立ち、待つこと数ヶ月。なぜだか嫌な予感がして出た電話の向こうは、頭から平謝り。祖父の万年筆は筒を交換されて修理から戻ってきてしまったという。一瞬、立ちくらみがするようだった。