圧倒的な質・量の村上隆のコレクションからのぞく死の影

松本徳彦『写真家のコンタクト探検-一枚の名作はどう選ばれたか』は、写真家たちのコンタクトプリント(ベタ焼き)の中からあの名作はどのように選ばれたか、前後にはどんなショットがあるのかを明らかにしているのだが、その本の中にもこのカットとこれが収められているフィルムロールのコンタクトが公開されている。

松本徳彦『写真家のコンタクト探検 一枚の名作はどう選ばれたか』 平凡社 1996年
松本徳彦『写真家のコンタクト探検 一枚の名作はどう選ばれたか』
平凡社 1996年

下から2段目、右から2番めコマ番号30番のカットがこれだ。

1971年に荒木夫妻は京都、柳川(福岡県)、長崎をまわる4泊5日の新婚旅行に出かけた。ニコンFに20ミリレンズを1本だけ。撮影したのはモノクロフィルム18本。作品撮影ではないので日数に比して撮影本数は少ないと荒木は言う。その中から108カットが『センチメンタルな旅』(私家版/限定1,000部)に収録された。

写真といえばデジタルになってしまった現在ではコンタクトプリントを目で追うことで撮影されたものを時系列に見るとか、いくつかの試行錯誤の末、このカットがあるのかとか、それを垣間見る意味や楽しみのようなものはなくなってしまっている。

さて、雑誌の方である。『SWITCH』2015年2月号では荒木経惟の特集を組み、ここに『センチメンタルな旅』で撮影された18ロールの全コンタクトプリントが収録されている。これは画期的な試みだ。

普通、セレクトされた写真しか見ることはできない。しかし、前後のカットはもちろん、その1本にはほかになにが写っているのか、その本命のカットが生み出されるまでにはどういう流れでたどり着いたのかがわかる。荒木経惟のファンはこれを見てまた一歩、彼に近づけたと思うだろうし、あるいは写真の腕を磨きたい者にとっては優れた先人による撮影指南でもあるのだ。

しかもこの名作を生んだ旅で撮影された全フィルムの全コンタクトが見られるとは。

『SWITCH』Feb.2015 Vol.33 No.2 「荒木経惟のたのしい写真術 ホンマタカシのアラーキー・ワークショップ13講座」
『SWITCH』Feb.2015 Vol.33 No.2
「荒木経惟のたのしい写真術 ホンマタカシのアラーキー・ワークショップ13講座」

1ページに1シートずつ、実物よりは縮小になってしまうが、ほんとだ、旅の全行程をコンタクトプリントで追っていけるようになっている。まるで映画じゃないか。新婚旅行らしい超プライベートな、たとえば夜に撮られたものもまったく隠さずに掲載。

『SWITCH』より

35ミリのフィルムは通常6コマずつ切るものだが、ここでは5コマずつ切られている。これは当時、荒木は電通のインハウスカメラマンだったのだが、電通が使っていたネガホルダーが5コマカット用のものだったからだそうだ。

なお、このボートのショットが載っている14番目のコンタクトプリントは荒木の手元にはなく、前述の松本徳彦『写真家のコンタクト探検』から転載したと『SWITCH』には注意書きがある。原稿のやり取りのどこかの段階で紛失してしまったり、返却されたものの元の場所に一括保管されなかったりなどの可能性がある。

結局、印刷物から転載するしかなく、そのためこの1本分だけコントラストや色のトーンが違うのがわかる。

さて、現代美術家・村上隆のコレクション。たった1人が集めたものはその人間の考えまでも表れる場合がある。このコレクションをいくつかの要素や傾向で分析することができる。たとえば、死を連想させるものが比較的わかりやすく見受けられるとか。

荒木のこのシリーズに漂う逃げきれない死というものに、村上が敏感に反応したのかどうかはわからない。荒木の作品はすでに学生時代に無理をして購入していたという話を語ってくれた彼だが、荒木作品にあらかじめ込められていたと見える「死」について取り立てて話をしてくれたことはない。

 

村上隆とスーパーフラット・コレクション Photo: 平尾健太郎
村上隆とスーパーフラット・コレクション
Photo: 平尾健太郎

■展覧会情報:

「村上隆のスーパーフラット・コレクション ―蕭白、魯山人からキーファーまで―」

会期:2016年 1月30日(土)~4月3日(日)
会場:横浜美術館[みなとみらい線(東急東横線直通)徒歩3分]
開館時間:10時~18時(入館は17時30分まで)
休館日:木曜日

http://yokohama.art.museum/special/2015/murakamicollection/index.html

 

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