圧倒的な質・量の村上隆のコレクションからのぞく死の影

具体的に言えば、2000年から始まったスーパーフラット3部作がそうだ。スーパーフラット展はロサンゼルスなどアメリカ3か所、そのパート2にあたる「ぬりえ展」はパリで、締めのパート3「リトルボーイ」はニューヨークでそれぞれ開催され、作品展+キュレーションという展開だった。つまり、「描く展」と「選ぶ展」の同時開催だ。

昨年末からの森美術館と横浜美術館での展開はその方式をさらに大がかりにしたものと解釈していいのではないかと思う。森美術館では東日本大震災をきっかけに描くことになった《五百羅漢図》はじめ、新作を中心に見せ、横浜美術館ではこの10年ほどで村上自身の眼が選んだ古美術から現代美術、陶芸、雑貨までを見せてくれる展覧会なのである。

村上のコレクションを見た者は一様に驚く。アーティストとして世界を舞台に活躍するかたわら、これだけの量と質のコレクションをどうやって築き上げたのか。

作品には巨大なもの、とても重量のあるものがあり、日本国内ではどこの美術館も所蔵していないようなものを彼が率いる企業体“有限会社カイカイキキ”が所有しているのだ。

さらに美術館では展示しにくく、それゆえ所蔵しにくい、毎回毎回、展示に手間と費用がかかるようなインスタレーション作品もいくつかある。そこには「美術館が持たない作品をこそ集めてやろう」という意気込みまで見える。そんなコレクションを収蔵するための巨大な倉庫をいくつも借りているのだがその賃料もたいへんなものだろう。

さて、村上コレクションの中にはこんな作品もある。巨大でもなく、難解でもなく、インスタレーションでもないが。

写真家・荒木経惟の《センチメンタルな旅》からの数点だ。村上がアラーキー好きとはと、ちょっと意外な気もしたが、学生時代にすでに、荒木の愛猫「チロ」が写された写真(今回の展覧会には出品していない)を分割払いで購入していたということだ。

展示されている《センチメンタルな旅》は近年のニュープリントであるが、この有名なシーンもある。新婚旅行で妻の陽子さんがボートの上で眠っているところを撮影したもの。

荒木はこの写真についてこう語っている。

「20ミリ(のレンズ)は違った世界が写るね。彼女は疲れて寝ちゃった。後で気付いたけど胎児の格好をして、三途の川を渡っているようで、無意識に死が写っちゃった」

荒木経惟《センチメンタルな旅》1971年(2015年プリント) © Nobuyoshi Araki, Courtesy of Taka Ishii Gallery, Tokyo
荒木経惟《センチメンタルな旅》1971年(2015年プリント)
© Nobuyoshi Araki, Courtesy of Taka Ishii Gallery, Tokyo

この写真のほか、展示されているものの中には、なぜか二人とも怖い顔をしている荒木夫妻の写真館での結婚記念ツーショットもあり、それが飾ってある壁を巡ると、以下の写真群が眼に入るようになっている。

在りし日の陽子さん。遺影と位牌になった陽子さん。(展示風景撮影/筆者)
在りし日の陽子さん。遺影と位牌になった陽子さん。(展示風景撮影/筆者)

この荒木の名作について書かれている書籍と雑誌を1冊ずつ紹介しよう。