ムートン2013年ラベルは李禹煥、未年の2015年は?

2013年のラベルを手がけた作家は、韓国籍ながら日本で活躍する李禹煥(リ・ウーファン)さん。60年代末から70年代中期まで続いた「もの派」の理論的主導者として知られている。

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「2013年は難しいヴィンテージと聞いていたので心配しましたが、シャトーに招かれていざ試飲してみると、スケール感はさほどでもないのに骨格がしっかりと備わっている。チェリーにコーヒー、タバコの香りがうっすらと感じられ、ニュアンスに富み、フィニッシュがすごくよい締まり具合。これならいける……と確信しました」と、ソムリエも顔負けのコメントを述べる李さん。

いよいよ原画を覆っていた黒いベールが剥がされた。その作品は、無地のキャンバスの中に左から右にかけてワインカラーのグラデーションがひと筆で描かれた、一見するとじつにシンプルなもの。

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「ぼくの絵は描かれた部分と描かれざる部分とがリンクして、ひとつの世界を表します。このラベル画も、大きな広がりの中にひとつのバイブレーションを起こし、ムートンのもつたいへん豊かで、時としてエロティックな世界観が出せればと考えました。大きな余白は、ワインはもっと大きく楽しむべきものということを表したかったのです」

ブガッティを駆り29年のモナコGPで4位入賞を果たすなど、多芸なるプレイボーイとして名を馳せたバロン・フィリップ・ド・ロッチルドのアイデアで始まったアートラベル。バロンの没後、ラベルを手がけるアーティストはひとり娘のバロネス・フィリピーヌ・ド・ロッチルドによって選ばれてきたが、そのバロネスも2年前に他界。代わって、アーティストの選定に携わるのはバロネスの次男で、大学では美術史を学び、画商としても活躍するジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロッチルドである。

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ちなみに父方の家系は、「フィガロの結婚」や「セビリアの理髪師」で有名な18世紀の劇作家、ボーマルシェに連なる。

「李氏は優れたアーティストであると同時に、ワインへの造詣も深い。もしも彼がアーティストの道を選ばなかったとしたら、きっと偉大なエノロジスト(ワイン醸造家)になっていたことでしょう。彼こそ、ワインとアートを結びつけてくれる人物。ですから私は敬意を表して、彼をアートノロジスト(芸術醸造家)と呼びたい」というジュリアン。

2013年のムートンは、李さんのコメントどおり、大柄ではないもののキメ細かなタンニンがストラクチャーを構成。収穫から3年にも満たない現時点ですでに楽しめる一方、少なくとも20年の熟成に耐えるだろう。

ところで、これまでムートンのラベルを手がけた日本人アーティストはふたり。79年の堂本尚郎と91年のセツコ(バルテュス夫人)で、いずれも未(ひつじ)年だった。次の未年にあたる2003年は、ロッチルド家がムートンを取得して250周年の記念すべき年だったため、バロン・ナタニエル・ド・ロッチルドの肖像画というイレギュラーなラベルに……。ならば2015年こそ、三たび日本人アーティストとの期待が高まる。

「未年に日本人アーティスト? それはいいアイデアをいただきました」とジュリアン。隣の席にいた彼の父君で書誌学者のジャン・ピエール・ド・ボーマルシェ氏は、村上隆を現代のピカソに例えるほどご執心の様子だったけど、誰が2015年のラベルを描くのかは2年後のお楽しみ……。

 

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