デザインが台湾の政治を動かす!?

僕は昨年夏、台湾のブックデザイン事情を紹介する書籍『T5 台湾書籍設計最前線』のために、40歳以下、5組のデザイナーを台北で取材した。

アーロン・ニエのスタジオにも訪問し、整然と片付けられたスタイリッシュなオフィスのなかで、彼が最近手がけた手の込んだつくりの写真集や詩集や音楽CDの話を聞いた。取材の最後に、いま総統選候補の選挙キャンペーンのデザインをしたという話になったが、その時は政治のデザインもスタイリッシュになっていくなんて台湾は面白いなあという、後から考えれば非常にピントのぼけた感想しか抱かなかった。

しかし、取材を重ね、台湾の政治事情を知るうちに、いま台湾のグラフィックデザインが面白いのは、単に才能あふれる若手が育ってきたとか、印刷コストが安いからといった理由だけではないことがわかってきた。

若い世代のデザイナーたちは、デザインを通して「台湾人のアイデンティティとは何か」「台湾のオリジナリティとは何か」といった問題に真剣に向き合って新しいデザインを生み出そうとしているのだ。彼らは日本や欧米のデザインに強い影響を受けながらも、それらをただ吸収しているだけではなかった。台湾の風土と歴史、台湾人の気質──、それらを背景にした新しい台湾デザインのあり方を様々な実験を行いながら模索しているのだ。

簡体字の漢字を使う中国と、繁体字を使う台湾では、タイポグラフィが異なる進化を遂げるのは当然であり、そうした台湾オリジナルの表現を求める若い世代のデザイナーたちの姿勢は、たしかに蔡英文の「台湾は中国の一部ではない」という政治姿勢に重なり合う。

取材したデザイナーのなかには、クラウドファンディングで雑誌を創刊し、初号ではデモを特集したデザイナーもいた。反核の旗を事務所の入り口に掲げていたデザイナーもいた。

アーロン・ニエは2014年に学生たちが立法院を占拠した「ひまわり運動」をサポートし、運動支持者がNYタイムズに出した意見広告『Democracy at 4 am』をデザインしている。

政治とデザインが重なり合う。しかしその政治とは、イデオロギーをめぐる争いではなく、アイデンティティをめぐる闘いといったほうがいい。アイデンティティの問題だからこそ、見えない思いを可視化するデザイナーの視覚伝達技術が活かされる。

では、ふりかえって日本では日本人のアイデンティティを探る表現においてどれほど真剣かつ野心的な試みがなされているだろうか?

日の丸、サクラ、富士山。いや、アニメ、琳派、おもてなし……。デザイナーでさえも出来合いのアイデンティティに充足していないだろうか。そう考えて、東京五輪エンブレムの行方を考えてみるといいかもしれない。

 

参考:

編:東京藝術大学美術学部(2015)『T5 台湾書籍設計最前線』

アーロン・ニエ公式サイト

Photos:Aaron Nieh , Dostoevsky / shutterstock