パレスチナ伝統のカラフルな刺繍糸で描くパンクな景色(後編)

アート製作のほか、最近はイスラエルを拠点とするファッションブランド「ADISH(アディッシュ)」のアーティスティックディレクターも務める。グラフィカルなロゴが印象的なストリート系のデザインとパレスチナ刺繍のコンビネーションがユニークなコレクションだ。

「工場は2国の国境近くにあり、Tシャツのボディはイスラエル側で、刺繍はパレスチナで、1枚の服が両国を行ったり来たりしながら出来ている」。国交のない両国間で、プロダクションの仲立ちを務めるのはなんと、タクシードライバーだそうだ。

Photo:Akiko Ichikawa

トランプ政権発足以来、ニューヨークでは政治的なスローガンをプリントしたTシャツも多く見かけるがADISHの場合は「単にメッセージをプリントするとか、売り上げのパーセンテージを寄付するとかじゃなくて、存在自体がポリティカル。実際このブランドで50人以上のパレスチナ人が雇用されていて、刺繍してくれる女性たちも、お土産物をつくるよりはずっとよい賃金で働けるから彼女達のサポートにもなっている」。

政治やチャリティについての繊細、かつ柔軟な志向はパレスチナ系という出自はもとより、多くの海外経験によるところも多いかもしれない。学生時代は日本に2年間留学し、その後ドイツではベルリンのアートギャラリーで6年間勤務した。

ニューヨークに戻り、2013年からは昨年まではアーティストブックを扱う書店「Printed Matter(プリンテッドマター)」が毎年9月に開催する「ニューヨークアートブックフェア」のディレクターを務めた。「2013年の 入場者数は2万3000人で、去年はほぼ2倍にふくれあがり、ガゴシアンみたいな超有名ギャラリーまでがブースを持つようになった」。

Photo:Akiko Ichikawa

今年はアーティストとして参加。「僕もジンとかアラブの音楽をミックスしたカセットテープなんかを作っているけど、欲しい人、興味を持ってくれた人にはだいたい無料であげちゃうか、トレードする。コミュニケーションのツールであること、それがジンの存在意義でもある」。

ホッチキスで止めた手作りのジンや個性豊かなアートブックは、何でもインターネットで手に入る時代のアンチテーゼ的存在といってもいい。手に取ることで初めて伝わってくる何かがある。それは彼の刺繍のアートにも通じるだろう。

「今のアート業界において刺繍のようなトラディショナルな手法をとるのはある意味でパンクだとも思う。展覧会をやるときは必ずジンも作っている。これは単なるきれいな作品というだけではない、パレスチナ人によるアートであり、カルチャーであり、土地であり、政治的でもある、ということを明らかにするために」。

「パレスチナとイスラエル、常にレフリーのような立場で両者の間に立つ」と語る彼は、その問題の“糸口”をカラフルで美しい刺繍糸を使って探している。

Name: ジョーダン・ナッサー
Occupation: アーティスト
Location: ゴワナス、ブルックリン
https://www.jordannassar.com

Photographs by Akiko Ichikawa