パレスチナ伝統のカラフルな刺繍糸で描くパンクな景色(前編)

ジョーダンはパレスチナ人の父親、ポーランド人の母親のもと、ニューヨークで生まれ育った。母方の家族は身近に少なかったこともあって、アラブ流の環境でパレスチナ人として育てられた。「アメリカで育った自分はアラブ語を話してもパーフェクトじゃない、何だかフェイクみたいな気がしていた」という。

同じような境遇のアーティスト、エテル・アドナン(Etel Adnan)の作品を知ったことが、アートを製作するきっかけとなった。「彼女はレバノン出身だけれど、幼いときに国を離れたのでアラブ語が話せない。自分のアイデンティティについて悩んでいたけど、その事自体をアートの主題としていた。自分もアラブ人としてのルーツは恥ずかしがらず、むしろ積極的に語るべきなんだ、そう気付かせてくれた」。

Photo:Akiko Ichikawa

2019年1月にドバイで開催される個展ではテルアビブの一般女性たちとコラボレーションした作品を出品する。「 アラブ女性たちにとって刺繍は伝統的な作業。彼女たちには自分が好きな色の糸を使って、思い思いにパターンを刺繍してほしいとお願いした。彼女たち自身が生み出すカラーパレットやデザインこそがパレスチナの伝統を象徴しているから。ただし画面には一部、小窓のような空白のスペースを残してもらう。その部分に僕が手を入れることで現代的な“アート”として完成させるんだ」。

小窓部分にはジョーダンがさまざまなランドスケープを刺繍する。場所自体には特定性はない。「世界には自分の国に帰ることのできない大勢のパレスチナ難民たちが存在している。彼らが思い描くパーフェクトに美しい国。もしかしたら、そこはパレスチナ、なのかもしれない」。

Photo:Akiko Ichikawa

コラボレーションでは、自分の血統を感じることができたのは大きな体験だった。「60歳のおばちゃんは、男の僕が刺繍なんかやっているって、最初は笑ってみていたよ。でも、一緒に作品を作り上げることで彼女たちの伝統に参加し、やがて僕もひとりのパレスチナ人として認められていったんだ」。

<後編>へ続きます

Name: ジョーダン・ナッサー
Occupation: アーティスト
Location:  ゴワナス、ブルックリン
https://www.jordannassar.com

Photographs by Akiko Ichikawa