伝統の町・松本に相応しい民芸家具のホテルに寛ぐ時

民芸家具とは、美術品でも貴重な骨とう品でもなく、日常生活の中で使われるために生まれたと説いている。つまり普段使いの家具調度品だ。それにしても、ホテル館内を埋め尽くす黒光りした松本民芸家具は、それぞれに造り手の思いとオーラを発するみごとな芸術品である。

ホテルのホームページには、「何気ない美しさ、日常生活の中で使い続けることで磨かれる輝きがある」と書かれているが、まさにその通り、使えば使うほど輝きや温もり感の出る家具、職人技の光る民芸家具である。そんな家具や調度品に囲まれて過ごせるホテル滞在は、貴重としか言いようがない。「民藝精神を映し出したホテル」らしく、室内で過ごしていると、まるで我が家にいるような落ち着きを感じるから不思議である。

館内に漂う品格や、客室の設えの美しさにも特筆すべき独特な‘美’があり、とりわけ客室のシンプルながら和洋折衷デザインの施された空間は、その和らいだ趣が’home away from home’の雰囲気を醸し出している。

ホテル創業は明治20年、130年余も続くホテルは近年に美しくリニューアルされ、一般的な外観からは測り知れない数々の魅力が、館内のいたるところに隠されていた。客室数89室。本館と旧館にそれぞれ分かれてある客室内は、いずれもゆったりと造られ、新設されたスイートルームは贅沢な50㎡の部屋として、2つ用意されている。

1階には「八十六温館」という名の喫茶室があり、外からの客も気軽に出入りできる。フレッシュなコーヒー豆を店名の由来である86度のお湯で、丁寧に一杯ずつネルドリップで淹れるという店は、地元の顧客にも愛され、店の名前の由来でもある。また、ホテル創業時と同年代に日本に生まれたというハッシュ・ド・ビーフは、今もランチの人気メニューという。

鮮度の高さで知られる人気のカフェでは、ランチタイムになると、「花月生まれのハッシュ・ド・ビーフ」やワンプレーとランチ、手作りケーキなどを求めて近所の人も旅人もやってくる。/Photo:松本ホテル花月

一方、メインダイニングのレストランI;caza[ikaza](イカザ)では、長野の言葉で「行こうよ!」の意味というから面白い。ここには、パリのオテル・ド・クリヨンで修業を重ねたシェフ上野宗士氏が監修をした「ながのテロワール」をコンセプトに本格的で迫力のあるフレンチを提供している。地元食材をメインに、美しく、奥深く、とても美味しいフレンチが楽しめると好評だ。

自然が豊かな町の伝統を受け継ぎ、1973年、明治の創業当時の革新的な洋風建築である旧館を今に伝える建築様式や民芸家具は、平成も終わろうとしている現代も尚、「松本ホテル花月」で輝いている。美しく黒光りする民芸家具と共に、革新と伝統の融合の中で歴史を重ねる魅惑のホテルである。

画像提供:松本ホテル花月

■ホテル情報

松本ホテル花月
長野県松本市大手4-8-9
TEL: 0263-32-0114
http://matsumotohotel-kagetsu.com/