東京のコンサート・チケットをめぐる考察。一番お高いオーケストラはどこだ!?

私事で恐縮だが、今年最も高額を支払ったチケットが、英国人サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団のマーラーの交響曲第9番他の演奏会(サントリーホール)でS席3万2000円。このラトルが昨年11月に世界最高と言われるベルリン・フィルを率いて音楽監督として最後の来日公演をした時のサントリーホールS席は4万5000円だった(11月24日の公演でキャンセルが出て当日抽選に行ったがハズレた)。

指揮者、演奏会場が同じなので、この1万3000円の差はオ-ケストラに対する評価の差ということになる。これをなるほどと思えるようになると、「通」ということになる。簡単に言うと、超一流と一流の違いなのである。

ロンドン交響楽団はベルリン・フィルに比べれば若い楽団でラトルが音楽監督になって1年余り。かなり意欲的な「攻め」の演奏で、ベルリン・フィルより良かったという声もあったほど。ただし、弱音で消え入るように終わる最後の部分で、余韻を味わっている最中に拍手する無神経者がいて、演奏をぶち壊してしまった。今となっては、このことばかりを思い出す。3万2000円も払ったのに。

ラトル指揮ロンドン交響楽団の来日公演のフライヤーとチケット/Photo:Akira Miura

今年のチケット代第2位は、フランツ・ウエルザー=メスト指揮クリーブランド管弦楽団のサントリーホールでのベートーヴェンの交響曲第2番&第6番の演奏会。S席3万円である。このウエルザー=メストはベルリン・フィルと並んで世界最高峰のオーケストラと言われるウイーン・フィルと来週来日する。サントリーホールで行うウイーン・フィルの演奏会はS席で3万7000円である。この7000円がクリーブランド管弦楽団とウイーン・フィルの評価の違いということになる。

ちなみに、ウエルザー=メストとクリーブランド管弦楽団は初めて聞いたが、合奏力、奏者の技術ともに最高レベルだが、フォルティシモのない恐ろしくスタティックなベートーヴェン演奏で大いに失望した。この指揮者は二度と聞きません、ということを確認するために支払った3万円だった。

ウエルザー=メスト指揮クリーブランド管弦楽団の演奏会フライヤーとチケット/Photo:Akira Miura

チケット代の第3位は、オペラ。新国立劇場のヴェルディ「アイーダ」。S席で2万9160円。本物の馬まで登場する豪華絢爛たる舞台とワールドクラスの歌手、管弦楽(パオロ・カリニャーニ指揮東京フィル)がこの値段というのは驚異的。例えば今年は海外の一流歌劇場の引っ越し公演としては、ローマ歌劇場公演があっただけだが、S席で5万4000円だった。

海外の一流歌劇場の引っ越し公演が激減しているが、オタク、ペラキチはともかく、一般のオペラ・ファンには新国立劇場をお薦めしたい。近年この新国立劇場の公演のレベルアップは著しい。

年間を通じて、私が最も回数を聴いているのは東京のオーケストラによるコンサートである。NHK交響楽団、読売交響楽団、東京都交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー、日本フィルハーモニー、新日本フィルハーモニーの7つがメイン。チケット代はいずれもS席で8000円ぐらい。最近は上記7団体のレベルアップも著しい。ハズレのコンサートが少なくなっている。しかし、いずれも「ほぼ一流」という感じなのである。それとミスを恐れる堅実な演奏が多い。私はもっと熱い演奏を期待しているのだが。

例えば、11月8日にNHKホールで聴いたアラン・ギルバート指揮NDRエルプフィルハーモニー(旧称ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)の演奏会だ。この演奏会のチケット代はNHK音楽祭参加ということもあって、サントリーホールでの公演(S席2万円)に比べて、30%引きのS席1万4000円。超一流→一流→ほぼ一流というランクからすると一流とほぼ一流の中間という感じ。「芸術をチケット代で判断するとは愚か」と叱られそうだが、値段を付ける呼び屋や興行屋を馬鹿にしてはいけない。実に見事な値付けをする。

それにしても、この夜の演奏会が実に熱かった。ワーグナーのオペラ「ローエングリン」の第1幕への前奏曲で始まった後、アンナ・ヴィニツカヤのピアノ・ソロでラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。ヴィニツカヤは、肩の故障で来日を中止したエレーヌ・グリモー(1969~)の代役。美人で狼を自宅で飼って野生狼の保護を訴える共感覚の持ち主のグリモーは、スター・ピアニストだ。一方ヴィニツカヤは通には知られた美人の若手実力派ピアニストだが、実に損な役回り。NHK音楽祭開催事務局が払い戻ししなかったのが不思議なくらい。

Photo:Akira Miura

しかし、代役の演奏は素晴らしかった。野性狼保護とか共感覚とか話題づくりがうまいのか、所属事務所が有能なのかどうかは知らないが、スター・ピアニスト(グリモー)と一流ピアニスト(ヴィニツカヤ)の違いというのがあるのだろうなあ。私が思うに、出演ギャラも3~4倍違うはず。そんなことを考えていたら、休憩後に私の斜め前にグラマラスなロシア美人が突如現れたのである。ん、彼女もしかして? そう、演奏を終えたヴィニツカヤが着替えて後半のブラームス交響曲第4番を聴きに現れたのである。写真は、彼女のサインと彼女が描いた音符だか片眼鏡のおしゃれなイラスト。茶目っ気もあるらしい。こういうことがあるから、演奏会はやめられないのである。

そしてNDRエルプフィルの後半のブラームスの交響曲第4番が素晴らしかった。技術はすでに東京のオーケストラの方が上なのではないだろうか。しかし、この熱い演奏は何なのだろうか。陳腐な言い方だが、ブラームスが生まれた土地の交響楽団の意地や矜持なのだろうか。これを率いるアラン・タケシ・ギルバート(母親は日本人ヴァイオリニスト)も、指揮姿からしてそうだが、なんとも音楽的な指揮で、オーケストラから音楽が奔流となって流れでてくる。

ギルバートは、ゴツイ風貌からしてもいわゆるスター指揮者ではない。しかし、この男が作り出す嘘のない音楽をもっと聴いてみたいと思わせる何かがある。東京都交響楽団の首席客演指揮者になったことだしちょっと追っかけてみようか。

Photo:Akira Miura