カリグラフィーと美しい紙。パリ『メロディ・グラフィック』の心安らぐセレクション

パリでこれまで何度となく通っている通りなのに、気づかず通り過ぎていたが、先日、ふと足を止めて引き込まれるように見入ったショーウインドーがある。綺麗な紙を貼ったカルトナージュの箱、数々のペン先、インク瓶、クラシックな柄の紙、優雅なシーリングスタンプなど、どれをとっても心惹かれるものが飾られていた。お店の名は「メロディ・グラフィック」。

「メロディ・グラフィック」のショーウインドーには、美しい紙が貼られたカルトナージュの箱を中心にインク、ペン、シーリングスタンプ、手漉きの紙などが。/Photo:Ayako Goto

オーナーのジャコモ・ノッティアーニさんとパートナー(妻)の竹内仁海さんに話を聞いた。ジャコモさんは革の表紙の手帳やアルバムを作ったり、オーダーメイドで音楽家の楽譜や、本の修復を手がけたりする専門家であり、一方、仁海さんはカリグラフィー(文字を美しく見せるための手法。サインや自筆はオートグラフと呼ぶ)の専門家である。

「メロディ・グラフィック」で扱っているものは、職人が手作りしたものにこだわっていて、従って自ずと味わいがあって心安らぐ美しいものばかりだ。手作りで一枚一枚柄が違う紙、ヴェネツィアの木版で押していく手作業の紙、メイド・イン・ジャパンの和紙もある。

見ているだけで美しい柄と色が見事な紙。/Photo:Ayako Goto

店内にはインクだけを置いたコーナーがある。現代の若者はインクで文字を書いた経験などないだろう。インクひとつとってみてもこれだけのバリエーションがあるのかと驚くほどの品揃えだ。さらに驚くことに、クルミの樹液で作られたインクは変色せず、実際、1789年に書かれたものは変色していないそうだ。カリグラフィー用のペン先は、閉鎖する工場(アトリエ)から何と、16,000個を買い取ったとか。

過去に実用として存在していたものを愛好家に販売するだけでなく、仁海さんは様々な顧客からの注文を受けてカリグラフィーを仕事としてこなしている。そして同時に美しい書き文字、カリグラフィーを教えてもいる。

どのような注文があるのか尋ねてみた。誕生日などのお祝いのメッセージカード、食事会の時に着席するテーブルに置く名前のカードやメニューカード、亡くなった人が書いたポエム、パーティの招待状、お店のディスプレー用の商品説明、といったものの他に、ラヴレターなんていうのもあるそうだ。いずれにせよ、1点もののオリジナルである。

羊皮紙も手漉きの紙も貴重だった時代には書き文字もカリグラフィーでていねいに美しく書かれた。/Photo:Ayako Goto

そして封書の宛名書きの依頼もあると聞いて、とっさに思い出したのが、パリコレのオートクチュールの招待状だ。かつてパリコレの取材をしていた時にエマニュエル・ウンガロから届いたものなのだが、インヴィテーション・カードも封書の宛名書きも素晴らしいカリグラフィーで筆者の名前や住所が書かれていて、いたく感激した。さすがオートクチュール!手書きの美にこだわっているわ、なんて思いながら、その美しい書体に見入った。コレクションが終わってからも大切に保管してあったのを今回、取り出してみたが、やはりこれは「アート」である。

筆者の元に届いたウンガロのオートクチュールのショーのインヴィテーション・カードと封書。こんな風にカリグラフィーが生活の中に息づいている。1996年1月と7月に受けとったもの。/Photo:Ayako Goto

仁海さんはカリグラフィーの教え方も難しいと話す。その人に合った教え方をし、練習の仕方を指導するのだそう。こんなていねいな先生に筆者もそのうち習ってみたいな~と思っている。

Mélodies Graphiques
10, rue du pont Louis Philippe 75004 Paris
Tél 01 42 74 57 68
火~土曜 11:00~19:00、日・月曜 14:00~18:00

Photo:Ayako Goto