恵比寿西にある小さな洋服屋が説くダッドな着こなしルール

たとえば女子の間では、安売り靴店でセールにかかっているような厚底のダサイスニーカーが、「ワッ、かわいい!」てなことになっているという。

いっぽう男子の間では、昔サラリーマンのオッサンたちの制服になっていた、バーバリーやアクアスキュータムのステンカラーコートが、古着屋で人気。今夏ヒットした半袖の開襟シャツだって、もとはオジサンアイテムであったもの。

さらには、セレクトショップから送られてくるシーズン・カタログを見ても、古臭い色のナイロンシェルの大きなダウンンジャケットとか、わざとクリースラインを入れてはくブカブカのチノパンツや、ツイードやフラノ製のオジサン・スラックスにVネックスウェーターの裾をあえて入れるスタイルなど、具体例を挙げるときりがないほど、ダッドなファッションが花盛りである。

しかも最近では、お婆ちゃんの原宿と呼ばれる巣鴨地蔵通り商店街に、なんとダッドならぬグランドマザー・アイテムを並べて売る若者向き古着屋まで出現したらしい。

ダッドな着こなしにインスパイアーされたと思われるコーディネート。(左)バーニーズ・ニューヨーク、(右)シップス、ともに2018AWコレクション・カタログより/Photo:Shuhei Toyama

いったいダッドの何が、これほど若者たちから憧憬を受けるのだろう? ダッドの着こなし例に事欠かない十条商店街にある喫茶店・梅の木の2階から、ファッションウォッチングをして考えてみた。

そして得た結論は、ダッドの着こなしの達人は流行に動じない、我が道を行く人ではないか、ということである。

つまり、やれタイトフィットだ、次はルーズだ、といった些細な流行などは露知らずに、「難しいこと考えず気持ちのいいものを適当に着てればいいんだよ」、という人生を達観したスタイルに若者は新鮮さを感じて共感したのではないだろうか。

しかしながらここまで書いてきて焦ったのは、ダッドな着こなしは若者がするから面白い味が出るのであって、すでにダッドな年齢にさしかかっている人がマネたらムゴイことになるのではないか、ということであった。

そこで、筆者は恵比寿西二丁目の原ビル2階にある、街の小さな洋服屋『Pt.アルフレッド』へ向かったのである。

というのも、ここの店長兼オーナー、本江浩二サンは、『悩みをアジに変えるオヤジの着こなしルール』(世界文化社)という快著をものにした人物であるからだ。

安易な着こなしノウハウ本とは一線を画する快著。時代は、ちょい悪オヤジから、味出しオヤジへ転換!/Photo:Shuhei Toyama

店へ入って驚いた。そこには、普通だけれど希少なトラッドアイテムが取り揃えられていたのである。

昨今のセレクトショップは、シーズンの流行にそって、トラッドなアイテム群のなかから商品をセレクトするという方針を取っている。言い換えると、その流行が終わると、定番のバラクーダG9でさえ見向きもしない店が少なくないのである。

しかしこの店の目線は、そうしたところにない。もちろん洋服屋だから多少の流行は意識しているのだろうが、むしろ、人々が長年使ってきて生き残ってきたデザインの服、ファッショナブルではないけれど丈夫で長持ちし、着込むほどに味の出るアイテム、といったものを取り揃えているのである。

「惜しくも市場から姿を消してしまったような良い服は、自分で作るようになりました。25年洋服屋をやっていると自然にそうしたツテができるんですよ」と本江さん。

そのオリジナルのチノクロスを使ったアイテムの豊富さと出来の良さは、店へ出向いて確かめる価値があるものだ。

昨年までNHKのEテレで放映されていた『団塊スタイル』という番組で司会をしていた白髪短髪の男性を覚えているだろうか。その着こなしがなかなかイイ、と業界で話題になったことがある。背伸びして流行を追いかけるのではなく、自分の体型や個性にふさわしい服をいつも新鮮に自然に身につけている装いが、その要因であった。

筆者はこの司会者のことを最初、どこかのトレンド誌の編集長だった人なのかな、と思っていた。しかし最近、それがNHKのお堅い国際番組などを担当していた、あの横分けヘアのサラリーマン・アナウンサー、国井雅比古さんだったと知ったのである。

国井アナを、プロの目を欺くほどナチュラルに変身させたのが、スタイリストをまかされた本江浩二さんだった。

この頃のNHKのEテレは、国井雅比古と火野正平という、ダッドな着こなしの2大スターを毎週放映していたのである。

火野正平は無理だけれど、国井雅比古あたりをめざすなら、まずは本江さんの著作を読んでから、店で著者自身のアドヴァイスを受けながらショッピングを楽しむ、という贅沢な時間を過ごすのも、一興!

そこでは、若者の好むダッドな着こなしとはひと味違う、あなただけのダッドな着こなしが見つかるはずだから。

『Pt.アルフレッド』本江浩二氏/Photo:Naho Jishikyu

Photo(1,2):Shuhei Toyama
Photo(3):Naho Jishikyu