ザンバーノがひとり瞑い海を見つめるフェリーニ監督の名作『道』の悲しいラ ストにとめどもなく涙を流してしまう、樹木希林さん主演の『日日是好日』

おまけに、樹木希林と黒木華と多部未華子の初共演。主人公・典子(黒木華)と、同い年の従姉妹の美智子(多部未華子)が茶道教室をしている武田先生(樹木希林)のところに通う。

©2018「日日是好日」製作委員会

茶道というと、一見とっつきにくい題材なのだが、典子と美智子が「習いたて」であって、お茶室での作法がビギナーにもわかるように、懇切丁寧に説明されていくというわけだ。そして典子と美智子は、知らず知らずのうちに、手が動き(所作)を憶えてしまう。

そして樹木希林さんは、惜しくも今年の9月15日に亡くなってしまう。2007年の松岡錠司監督作品『東京タワー/オカンとボクと、時々、オトン』(英語題Tokyo Tower: Mom and Me and Sometimes Dad)、2008年の是枝裕和監督作品『歩いても 歩いても』(英語題Still Walking)、2015年の河瀬直美監督作品『あん』(英語題Sweet Bean)、2016年の是枝裕和監督作品『海よりもまだ深く』(英語題After the Storm)、2018年の是枝裕和監督作品『万引き家族』(英語題Shoplifters)が、おそらく樹木希林さんのトップ5だろう。

是枝監督の3本が入っているが、たいていは阿部寛演じる主人公の母親役。是枝監督の僕の1つ下で、ほぼ同世代だから、樹木希林さんに母親役を重ねていたのではないか。

僕の母親ははるか前の61歳でがんで亡くなってしまったが、見た目とルックスと実年齢は、昨年81歳で亡くなった野際陽子さんが近かった。だからここ10年ほど、映画やテレビで樹木希林さんや野際陽子さんを観るのが辛かった。

また、新宿ゴールデン街のある店で常連客同士になり、10年くらい前に一緒に韓国に旅行した親友のドリアン助川くんが『あん』の原作者だったことも幸いした。原作者と主演女優で、世界中のありとあらゆる映画祭に出かけて、本当に貴重な体験をした。樹木希林さんの追悼番組をいっぱい観たが、ドリアン助川くんのコメントが一番輝いていた。

また先日、NHKスペシャル『“樹木希林”を生きる』を観た。最晩年の今年、沖田修一監督、山崎努共演作品『モリのいる場所』、カンヌ国際映画祭パルムドール作品『万引き家族』、そして『日日是好日』、山辺投資詐欺事件をモデルとした浅田美代子共演作品『エリカ38』の4本に出演。その番組では、撮影がたいそう辛そうで、待ち時間のあいだに横になったりしていた。

さらにドイツ映画『Cherry Blossoms and Demon(原題)』にも出演。なんと、来年3月にドイツ公開が決まったそうだ(樹木希林さん出演が海外で公開されるのは、初めて)。役どころは、女主人公の母親役で、小津安二郎監督と何かとゆかりが深い、JR茅ヶ崎駅の側の「茅ヶ崎館の女将」。小津安二郎監督の名作といわれる『晩春』や『東京物語』の脚本を書いたといわれるのは、茅ヶ崎館の「二番の部屋」。

そのクライマックスで、1952年の黒澤明監督作品『生きる』で、最後がんになって死んでしまう主人公・渡辺勘治役の志村喬がブランコを漕ぎながら歌った大正時代のヒットソング『ゴンドラの唄』(吉井勇作詞、中山晋平作曲)を歌う場面でたまらなく涙が出た。なんと、渡辺勘治も、小津安二郎も、がんで亡くなるのだ。

大森立嗣監督・脚本作品『日日是好日』は、10歳の頃の主人公・典子が、1954年のフェデリコ・フェリーニ監督・脚本作品『道』(原題La strada)を観るところから始まる。世の中には、「すぐわかるもの」と「すぐわからないもの」の二種類ある。子どもの頃はまるでわからなかったものが、今となってはフェリーニの『道』のように、とめどもなく涙を流してしまう場合があるのだ。

『甘い生活』や『8 1/2』や『フェリーニのアマルコルド』は、イタリアのローマ郊外のチネチッタ撮影所の「テアトロ・チンクエ」で撮影したもので、そのチネチッタ撮影所まで行った、フェリーニ狂の僕のためにあるような映画だった。

真面目で理屈っぽい20歳の大学生・典子(黒木華)。おっちょこちょいな自分に嫌気がさす典子は、ある日、母親から「お茶、習ったら」と突然勧められる。意味がわからず困惑する典子だったが、同い年の従姉妹・美智子(多部未華子)からも誘われ、2人は自宅近くにある茶道教室の先生を訪ねる。

その先生は大きな家にひとりで暮らし、巷で「タダモノじゃない」と噂の武田のおばさん(樹木希林)だった。稽古初日。典子と美智子を茶室に通した武田先生は、挨拶もほどほどに稽古を開始。折り紙のような帛紗(ふくさ)さばき、ちり打ちをして棗(なつめ)を『こ』の字で拭き清める。茶碗に手首をくるりと茶筅(ちゃせん)を通し『の』の字で抜いて、茶巾を使って『ゆ』の字で茶碗を拭く。お茶を飲み干すときにはズズっと音をたてる。茶室に入る時は左足から、畳一帖を六歩で歩き七歩目で次の畳へ……。意味もわからない所作に戸惑うふたり。毎週土曜、そんなふたりの稽古は続いた。

©2018「日日是好日」製作委員会

鎌倉の海岸。大学卒業を間近に控えたふたりは、お互いの卒業後を語り合う。美智子は貿易商社に就職。だが典子は志望の出版社に落ちて就職を諦めていた。就職後、美智子はお茶の稽古をやめてしまったが、出版社でアルバイトをしながらお茶に通う典子には後輩もできた。

お茶を始めて2年が過ぎる頃、梅雨どきと秋では雨の音が違うことに気づく典子。冬になり、お湯の「とろとろ」という音と、「きらきら」と流れる水音の違いがわかるようになった。がんじがらめの決まりごとに守られた茶道だが、その宇宙の向こう側に、典子は本当の自由を感じ始めるのだった。

©2018「日日是好日」製作委員会

お茶を習い始めて10年。いつも一歩前を進んでいた美智子は結婚し、ひとり残された典子は、好きになったはずのお茶にも限界を感じていた。中途採用の就職試験にも失敗。お点前の正確さや知識で後輩に抜かれ、武田先生には、そろそろ工夫というものをしなさいと指摘される。大好きな父(鶴見辰吾)とも疎遠な日々が続いていたある日、典子に一大転機が訪れる……。

©2018「日日是好日」製作委員会
動画:Sofia de cucco alconada – YouTube