港町マルセイユ『シェ・ミッシェル』でいただく、濃厚魚出汁の本格ブイヤベース

マルセイユは、古くから港町としておなじみだが、現在はアートと建築の街として大きく変化している。周辺エリアは新しい商業施設が次々にオープンしていた。そんな風に街の佇まいが変わってもマルセイユを代表する料理と言えば、やはりブイヤベースだろう。もともとは地元の漁師が売れ残った魚を煮込んだ、いわば漁師料理。どこでも食べられるかというと、そうでもない。何しろ新鮮な魚をたっぷり使わなければコクが出ないので、普通のレストランでは扱いにくいのだ。

本場で本格的なブイヤベースを食べたいと言えば、必ず出てくるのが「シェ・ミッシェル」だ。旧市街・サンニコラ要塞の裏手。まずはいかにも観光地にありそうな派手な外観に「う~ん」。

30年、40年前から有名人が訪れる名所

店内に入る。経営者とおぼしきおじさんはニコリともせず、客を品定めするようにジロリとひとにらみした後「お前たちの席はそっち」といちばん隅に追いやられた。期待に膨らんでいた気持ちがみるみるしぼんでいく。

しばらくして料理に使う魚を銀のトレイに盛って説明にきたスタッフはフレンドリーで少しホッとする。「魚の名前を教えて」と聞けばノートに書いてくれた。日本でいえば的鯛、カサゴ、イトヨリに似た魚が私たちに割り当てられたお魚。

「今日の朝、港に揚った魚だよ!」ということで日本に劣らない鮮度。

これを調理してくれるのだが、使う魚はテーブルごとに異なる。隣の5名テーブルに出てきた山盛りの魚にはびっくり! 5人分で10匹ぐらいはあろうか。横目で見物しているとキンメダイのような赤い魚が、我々のよりおいしそ~。ブイヤベースは一人75€と決して安くはないので、これは人数揃えて来た方が得だなと思った。気を取り直してプロヴァンスのロゼワインをオーダー。プロヴァンスのロゼにハズレはないのが救いだ。

ほどなくしてパンとアイヨリ(ニンニク風味のマヨネーズ)、マイユ(ピリ辛のアイヨリ)、そして主役のスープが表れる。この2種類のペーストをトーストしたパンに上にのせて、スープに浸して食べるのだ。大きな皿になみなみ注がれたスープ。サフランをたっぷり使っているのだろう、黄色いトロリとしたスープは食欲をそそる。

ようやく味わえる本場のブイヤベースを慎重に口に運んだ。「これは見事!」そのお味は魚の旨味を幾重にも重ねて濃厚な出汁になっているのに、後味はすっきりとしている。アイヨリ、ルイユをトーストに載せてスープと味わっていくと、いくらでも食べられてしまう。続けて魚の身といっしょに煮込んだジャガイモと人参、魚が皿にたっぷり盛られて登場。

魚自体はすでに旨味が出汁になっているので、それほどの感動はないがその傍らでしっかり旨味を吸い込んだじゃがいもと人参のおいしいこと! これは日本では経験したことのないおいしさ。気乗りのしないディナーになりつつあったが、このスープで大逆転! 終わりよければ、すべて良し。一人分75€は少し高いが、それでもこのあとに食べたいくつかの店で、「シェ・ミッシェル」を超える味には出会えなかった。

ちなみに東京でスープ・ド・ポワソンをいつも用意してくれるのは、代々木「レストラン キノシタ」と西麻布「マレキアーロ」。それぞれのスタイルで海のエキスを味わせてくれる。スープという料理は、簡単なようで奥が深い。その料理を変えずに出している、シェフのいる店なら信頼できると、私は思う。

必ず予約を。オープンして1時間もすると満席のにぎわいに。

Photo:Muneaki Maeda