知られざる清涼服地BAMBOOは、衣替えの習慣を変える!?

ツメを使った寿司のあれこれを堪能した後、アトリエでユキさんは、ジャケットを脱いで裏返して見せてくれた。なんとその上着は、総裏だったのである。

「じつはこのジャケット、合物として仕立てたものなんです。でも服地のおかげで、盛夏でも使えるほどでした。もっと涼しくしたければ、芯地をメッシュの1枚だけにして、パッドやゆき綿や裏地や袖裏地まで取り払った、うちのアトリエ特製のジャッカ・レジェーラ仕様にすると完璧ですよ」と、教えてくれた。

もう夏も終わろうというときに、清涼上着の話題。まったく実用情報としては失格だ、と考える方も多いだろう。が、今は急激な気候変動によって、季節の変化による衣替えの概念は崩れようとしている。

事実筆者のまわりには、1年中服を出し放しにしている人が少なくない。こういう方にとって、こうした話題は興味をそそると考え、さらに問題の服地についてもレクチャーを受けることにした。

これがその服地ね、とユキさんが渡してくれたのは『BAMBOO』とネーミングされた生地見本帳だった。

メーカーは英国のハッダーズフィールドとなっているが、実際に生地を織っているのは、イタリアらしい、ということである。

その服地を触ってみると、かなり厚い。生地のスペックを見ると、驚いたことに280gもあるのだ。何じゃコリャ、合物じゃないかと不思議がっていると。

ユキさん、得意げにニャっとしながら、「今どきの清涼ウール服地で一番軽い奴は190gくらいでしょう。でも実際に着てみると、それよりBAMBOOのほうが、ずっと涼しく感じるのですよ」

ユキさんが自分用に仕立てたという、BAMBOOジャケットと190gウールの上着を借りて試しに着比べてみると、たしかに肌にあたったときの冷感が、BAMBOOのほうがずっと涼しいと感じるのである。

そこで思い出したのは、クールビズの立ち上げの頃の話だ。

当時、環境省の大臣だった小池百合子現都知事は、クールビズの実施にあたって、クールビズ用清涼ジャケットのデザイン案を菊池武夫ら、何人かのファッションデザイナーに依頼していたという。なにしろ国策だから、タケ先生も真面目にお仕事をなさったのであろう。いろいろな服地を研究し、もっとも涼しい服地が竹繊維を使ったものだったのだという。

「冷房の効いたなかでこの上着を着ると寒いくらいに涼しいんだ」と、某TV番組のインタビューで、タケ先生が応えていたのを覚えている。

ただし当時のバンブー生地は、摩擦による対抗指数が低く、着続けると生地が毛羽だちやすい欠点があるらしい、と業界人の噂話を聞いたことがあった。

でも実際のところはどうなのだろう。この生地を日本で扱っている大阪のタンゴヤ(株)に問い合わせてみると、意外なことにこれを春夏用の清涼生地としては謳っていないそうなのである。ただし詳しいことは判らないので、親切にも本国に問い合わせてくれたのだが、返事は、最低でも1カ月ほどかかる、ということである。これでは、記事の賞味期限が保証できない。

そこで筆者のインプレッションと推測で、この服地について考えてみることした。

まず生地の風合いだが、メーカーが強調している、シルクのような上品な光沢があり、カシミアのようなソフトな手触り、というのはまんざら嘘ではない。

いっぽう製造法であるが、これは針葉樹やパルプを原料とするレーヨンと基本的には変わらないのではないか。つまり、ある種の竹を細かく砕いて、それを溶かし(おそらくアルカリ系溶液に浸けるとか)、そこからセルロース繊維を取り出して、製品に仕上げるのだろう。

で、問題の摩耗に弱いという噂だが、これは強度検査をしないと、なんとも言えない。ただしユキさんの上着を観察すると、わずかに生地表面に毛羽だちが生じている。しかし、織りがざっくりとしたホップサックなので、それがうまく馴染んでいるように見える。そのあたりは、さすがイタリアの服地作り、と感心したものである。

BAMBOO服地は、今のところテーラーだけに流通しているエクスクルーシブ品。

メーカー推奨は、合い物らしいから、ユキさんのように1年中出しておいて、広範囲の期間着用するのもアイデア。ついに脱衣替え服地の登場である。

Photo:Shuhei Toyama