スーツの新バランスを実験する!?

自動車のデザインもそうだが、名車といわれる原型を中途半端にアレンジすると失敗するケースが多い。新たな名車を生み出すには、マイナーチェンジでなく、むしろイチから新しいものを考えたほうが良いのだ。

こうした取り組みに、今積極的なのは、英国のファッションデザイナーたちではなかろうか。たとえばE・トウツやポール・スミスのデザインチームがロンドンやパリコレで打ち出す、新しいスーツやジャケット&トラウザースのバランスは、どちらも上着の着丈が長く、現代のボールドルックとでも呼べそうな、新鮮な男らしい魅力に溢れているように思える。

筆者は、仕立ての勉強を続けるうちに、いつしかコレクションのスーツ写真を観るだけで、そのスーツの着丈や肩幅などの具体的な大きさが判るようになってしまった。つまり目に物差しがついた感じなのである。

E・トウツとポール・スミスのスーツをMサイズにグレーディングすると、おそらく着丈は77から78cm、身幅(たぶん約51cm)も肩幅(約46cm)もゆったりしたバランスになっているように見受けられる。

こうした、長く、ゆったりとした上着に、いったいどのようなトラウザースを組み合わせれば、新しいバランスが生まれるのだろうか。筆者はそこに俄然興味が沸いてきて、手持ちの服で実験を試みることにした。

まずはE・トウツやポール・スミスのように、股上の深い、ゆったりしたストレート・トラウザースを合わせてみることにする。

2つのブランドのトラウザースとも、写真で観るところによると、具体的な数字は、ウエスト82cmで、股上32cm、渡り幅32から33cm、裾幅22から23cmといったところだろうと見当をつけた。

で、着丈77cmの上着に組み合わせてみると、なかなかいいバランスになることが判明。問題はパンツの股下寸法をどのくらいにするかで悩んだが、これは靴をはいて、裾にブレイクが入らないギリギリの長さにすると案外うまくいった。靴は捨て寸のない、つまりロングノーズでないものがマッチする。

ただし上着に比べて、パンツの裾のボリュームが少し足りない感じもしたので、裾の折り返しを6.5cm幅にしてみた。

トラウザースの折り返しは、通常ウエスマンの幅と同じにするのが基本だが、6.5cmもの幅があるウエスマンといえば、思い浮かぶのはグルカパンツ。たぶん、着丈の長い上着には、グルカパンツのディテールはマッチするような気がする。

この着丈の長い、比較的ゆったりした上着に、ワイドパンツほどではないルーミーなストレートパンツを組み合わせるバランスは、クラシックな雰囲気も少しあって、なかなか素敵だな、と感じている。

いっぽうこの上着を少しモードよりに振って着こなす場合は、どんなトラウザースがよいのだろう。

筆者が思いついたのは、サルエルパンツである。そこで、ウエスト82cmで、股上38cm、渡り幅35cm、裾幅18から19cmほどのサルエルパンツを合わせてみると、この上下からはリラックス感がより強く醸し出されて、これまた面白い雰囲気になる。

着丈の長い上着は1970年代にも一度流行したことがあった。このときは、上着のウエスト位置を高い位置で絞って、そこから裾へ向けてフレアーをつけたようなシルエットが主流になったものである。

しかしこれから注目されるかもしれない着丈の長いスーツは、それよりずっとリラックスした着心地になるであろう。

ただしそれは、ソフトスーツよりもテーラードよりで、またボールドルックで打ち出されたマッチョな男のイメージとも異なるもの。つまりは、ナチュラルな余裕をもつ軽やかな男のイメージになるにではないかと、筆者は今度の実験から推測をしているのである。

Photo:Shuhei Toyama