ファッション&アパレルと政治、経済、そして技術の決して単純ではない関係⁈

いまから考えると、当時日本国内での縫製比率は90%だったと思う。バブル末期でメーカーは値段を吊り上げることしか考えていなくて、素材がイタリア製で縫製がイタリア製なんていうのがもてはやされていたのである。消費者は、「やっぱり、イタリア製は違うよね」とかなんとか言っていたのである。そのなかにユーゴスラヴィア産が混じっていても、そんなことを知るのはごく一部だった。

しかし、通産省は、この国内縫製の大部分が、10年~20年かけて中国に移転することを知っていたのではないかと思う。つまり1989年のベルリンの壁崩壊に端を発したソ連消滅→冷戦終結→グローバル化加速というシナリオが分かっていた人物が通産省にはかなりいたように思う。

遡れば、1972年の沖縄返還の見返りが、日米繊維交渉。俗に「縄(沖縄)と糸(繊維産業)」の交渉と言われた。激しい外交交渉の末、日本は、繊維の対米輸出を自主規制することになる。いつでも、繊維は日陰ものである。「そんなものは、中国にでも作らせておけばいい」というのが、日本政府の基本姿勢である。

知らぬは、庶民ばかりなり、である。当時(1980年代後半)の庶民感情は、「え、これ中国製なの? なんかちょっと安っぽいよね」とか言っていたのである。もう、ニットの半分近くは香港並びに中国製に代わっていたのにも拘わらず、である。しかし、いつの間にか、日本人の中国縫製繊維製品アレルギーもなくなっていく。人間というのは、本当にいい加減なものである。

バブル経済崩壊→賃金上がらず→衣料にかける支出激減→青山商事やアオキインターナショナルなどの郊外型紳士服専門店の台頭→郊外型紳士服専門店のビジネスを学んだ「ユニクロ」を始めとするSPAブランドの急成長という図式になる。このあとはくどくど書かなくともご存じだろう。

ここにきて、AIやら3Dデザインでもの作り日本が復活なんて、言われても、かつての歴史を知るものは「またかいな」と苦笑いしてしまう。特に注目されている「ZOZOスーツ」なる自動採寸アプリの珍妙なドット柄のタイツには、失笑を禁じ得ない。私は、あのドット柄タイツを着た自分を思い描いただけで笑いが止まらず無料なのに購入を断念した。採寸が勝負と言われるメンズスーツがその最大の対象になりそうだが、うまくいくのだろうか。定価は4万4800円だがお試し期間中の現在はプラスドレスシャツ1枚で24800円だ。

「ZOZOスーツ」:測定時間は平均15分/提供:スタートトゥデイ

この動きを見て、百貨店のオーダーや共済組合などでの簡易オーダーで大きなシェアを誇るオンワードグループも黙ってはおらず、新しいオーダーシステムの「カシヤマ・ザ・スマートテイラー」を開発し昨年秋からスタート。従来採寸から納品まで3週間だった納期を1週間に短縮し、価格も3万円~、4万円~、5万円~、6万円~。

こんなことが何故今までできなかったのか。一番の原因はやはり、「ZOZOスーツ」の登場で危機感が高まったからだろう。その結果、【1】中国・大連の協力工場を買収。【2】ファックスなどで送っていた採寸データをメールで送り直ちにマーキング、カッティングできる体制を組んだ。【3】出来上がったスーツを圧縮パックすることで搬送がスピーディになった、などの要因が挙げられている。さらにこちらの採寸は熟練のフィッターが行う。「ZOZOスーツ」VS「カシヤマ・ザ・スマートテイラー」の戦いは見ものである。

「カシヤマ・ザ・スマートテイラー」のパックライナーを作る圧縮機/提供:オンワードパーソナルスタイル

不思議に思うのだが、洋服の歴史というのは、スーツに関しては、オーダーで注文するしかなくて、時代が進むにつれて、いわゆる既製服(吊るし)に移行してきた。当然、ぴったりのサイズを提供できるようにサイズ研究は徹底的になされてきたはずである。しかし、やっぱりパーソナルな採寸オーダーがいいということで、現在は昔に戻ったことになる。しかし、これは一種の逆行ではないのだろうか。

いや考えてみれば、昔オーダーでスーツを作ったのは、中流以上の階層だった。IT技術の普及でそれが、下の階層にまで浸透するようになったと考えたら良いのだろう。これも、ファッション&アパレルの「民主化」の一環なのであろう。

画像提供(1):スタートトゥデイ
画像提供(2):オンワードパーソナルスタイル