ステッキが、今、素敵に見える!?

『MATSU Cane&Walking Stick』は、ビギやタケオ・キクチなどでアクセサリーのデザインを始め、その後『M.Y.』ブランドで独立した吉田眞紀が、しばしの休業後にカムバックした新ブランドだ。

今回、プロダクツデザイナーの吉田が協業したのは柘製作所。創業1936年という日本を代表するパイプの製作メーカーであり、その代表作であるフリーハンドパイプの『IKEBANA』は、世界のパイプマニアが認めるプレミアブランドになっている。

パイプとステッキ、素人考えでは結びつかないように思えるのだけれど、「パイプの加工に使うロクロなどの機械は、ステッキと共通のものが多い。それどころかうちは、吉田がアクセサリーデザイナーに成り立ての頃から、うるさい注文をこなしてきたんだ(笑)。金属と木材の融合とかも得意なんだよ」と、教えてくれたのは、柘製作所の柘恭三郎社長。

そういえば筆者がM.Y.時代に買って今も愛用している、繰り出し式のボールペンとか銘木製のカフスボタンはみんなここで作っていたのか、と話を振ると、社長は嬉しそうに筆者を倉庫の奥に招き、「これはチャップリンも使っていた根竹の極細ステッキね、こちらはステッキの最高峰スネークウッドだよ」といった具合に、昔、老舗百貨店に納めていたであろう希少な見本を見せてくれたのである。

パイプからステッキまで、紳士の趣味の逸品を長年扱ってきた人だけに、じつに粋な社長なのである。しかも常に職人へのリスペクトを忘れない職方商人(しょっかたあきんど)の典型のような人物なのも好感を持てた。

M.Y.時代に吉田が柘製作所と作りあげた繰り出し式ボールペンとカフス/Photo:Shuhei Toyama

さて、本題にもどり『MATSU』のステッキであるが、どれも吉田眞紀の設計らしい、研ぎ澄まされたシンプルで美しいデザインに仕上がっていた。なかでも吉田が気を配ったのが、ステッキの先端、石突きのディテールだという。

「通常、石突きはゴムのキャップがかぶせてあって、どうも美しさに欠けていると思っていたのです。そこでゴムの無垢材で円錐を作り、その上部をカットしたパーツを共通の石突きにすることにした。このパーツは、先が減れば簡単に交換が可能だし、ディテールの収まりの良さも納得してもらえるはずです」

石突き部分を進化させたMATSUのステッキ/画像提供:MATSU

ステッキというと我々はどうしても、古臭い紳士の持ち物というイメージを抱きやすい。それは大正時代の文士たちが主に和服に合わせて愛用していた籐や竹のクラシックなステッキ。あるいは、19世紀末に活躍したダンディーたちが持ち歩いていた、銀製の手もと部分に猟犬やドラゴンなどのついた、具象柄のステッキといったイメージが強くあるからだろうか。

たとえば現代のスーパーカー(ランボルギーニ・レヴェントンとか)から白足袋で太い籐のステッキを持つ男が出てきたら違和感を覚えるだろうが、『MATSU』のジュラルミン製のステッキであれば、新しい紳士スタイルの予兆を想像できるであろう。

ちなみにこのステッキは、航空機用の最上のジュラルミンを使用しているうえに、軽さを生かして強度を高めるために、材の断面を十文字型に組み上げて設計している、と聞けばなおさらであろう。

ステッキの素材はその他にも、ブライヤー、マイカルタ(綿キャンバスに樹脂を染み込ませたものを何層にも重ねて表面に磨きをかけた素材)、マホガニー、カーボンなどがあって、どれも具象性を排したモダンな仕上がりだ。それは吉田のデザインの一貫したスタイルとなっている。

『MATSU』のステッキは、レトロなスタイルにも合わないことはないだろうが、むしろ機能的で安価な老人用ステッキに満足出来ない、お洒落で、生活に余裕をもつ大人たちが、「オッ、ようやく出ましたな。待ってたんですよこういうシンプル・シックなやつを」という感じで使って戴きたいモノなのである。

Photo(1):Shuhei Toyama
画像提供(2~4):MATSU