リクリット・ティラヴァーニャがTシャツというソフトメディアで伝搬する〈世界主義〉革命!?

2000年、東京では初の個展がギャラリーSIDE 2で開かれて以来、タイ・カレーの仕込みを手伝ったり、互いの関心事である多様な食文化の話やプロジェクトの相談をしたり。いつもレイドバックした雰囲気で和むけれど頼りになる兄貴的存在、それがリクリットなのだ。

彼がここ数年取り組んでいるのが、これまでの作風とはひと味違う、世界各国の新聞を素材としたシリーズ。初期の作品はすでにMOMAのコレクションにもなっている。

その一環として6月、表参道のセレクトショップCHAOSで開催された『Do We Dream Under the Same Sky』展は、大学以来の友人であり、共にコロンビア大学で教鞭を執るヴェトナム系アメリカ人作家トーマス・ヴーと共同で、2013年より米国、コロンビア、スペインなどの各都市で開催されてきたプロジェクトだ。

アートとファッションが心地よく共存するCHAOSのショップには、一段高くワークステージが設置され、朝の光を浴びてリクリットとアシスタントが黙々と立ち働いていた。

デヴィッド・ボウイからトランプ大統領まで、現代のアイコンや世界で起こったさまざまなニュースが掲載された新聞に、彼らはシルクスクリーンで簡潔で力強いゴシック体のフレーズを刷り入れ、仮設の壁に次々と掲示していく。

さらに公開制作の期間中、観客はTシャツのカスタムオーダーという形でクリエイションに参加することができた。

まずは新聞記事からピックアップされた、音楽、映画、美術、政治といった分野の歴史上の人物のポートレートがプリントされたTシャツを選ぶ。次にそこに刷り込むテキストを選ぶと、Tシャツは制作行程に回され、淡々と作業が進む様子を眺めることができる。

Photo:courtesy of Chaos OMOTESANDO / ELEMENT RULE

ゆったりと時間が流れていくこの感じは、タイ・カレーや釣りの作品の展示空間とまったく同じ雰囲気だった。

「シルクスクリーンの版はクオリティにそれほどこだわってないんだよね。ミスがある方がおもしろい。着る人もみんなそれぞれ違うしね」とリクリット。

「新聞という素材を選んだのは、まず第1に時代の瞬間を記録するメディアだから。最近はだいたいネットで読むけど、ますますリアルな一瞬を捉えてるよね。第2に新聞には数多くの人生とそれらの関係性のレイヤーが重なり合ってる。第3に新聞紙のリサイクルペーパーの質感かな。印刷が退色して紙の色も変化していく。僕は“変わらないもの”は好きじゃないんだよね」

ガンジーやピカソ、宇宙飛行士ガガーリン、スタンリー・キューブリック監督の映画『時計仕掛けのオレンジ』に登場するマネキン、ロシアの反体制バンド〈プッシーライオット〉。Tシャツにプリントされたイメージは、グラフィティやポスターを創作の源泉にしてきたトーマスが選んだという。

「ヒーローとヴィランズ、両方いるよね。僕自身にはあまりヒーローといえる存在はいないんだけど」

人物のポートレートに重ねられる言葉は、リクリット自身の発案もあれば、ファスビンダー監督の映画タイトルから引用された「FEAR EATS THE SOUL」なども。

「DO WE DREAM UNDER THE SAME SKY(僕らは同じ空の下で夢を見るのだろうか)」

「THE TYRANNY OF COMMON SENSE HAS REACHED ITS FINAL STAGE(常識の横暴はそろそろ終わりに差しかかろうとしてる)」。これはトランプ政権の態度を見るうちに湧いてきた言葉だという。

「トランプは歴史的なイベントに自分の名を刻みたいだけだろうが、そんなことは心底どうでもいい。僕がいま端的な言葉で素早く意思を伝達できる作品にフォーカスしている理由はそこだ。トランプ政権下にいる僕たちには時間がない。急がなきゃならない」

タイの外交官の家庭に生まれたリクリットは、アルゼンチン、エチオピア、カナダ、アメリカなど異なる環境で育ち、現在もニューヨーク、ベルリン、バンコクを行き来する真のコスモポリタン(国際人)だ。

国籍や民族、文化圏はもちろん、アートの既存領域も越えて、彼はコミュニケーションの重要性を自らの行動力によって体現しようとしてきた。デビュー以来、彼がブレることなく伝えようとしてきたことは「相互の影響」「本質的な関わり」のもたらす力だ。

バンコクで食堂を営んでいたおばあちゃんの料理で観客をもてなし、ビエンナーレの展示空間を無名のバンドに提供し、軽自動車で日本を縦断した旅の記憶を焼き魚と梅干しで共有する。これまで彼の作品には常に日常生活の延長上の“媒介”が存在した。

いま彼にとって、その媒介さえもどかしいほど、世界の状況は切迫し、作品の表現は批評性を強めている。これによって彼の活動に刮目するオーディエンスの性質もだんだん変わってきたという。

「身のまわりの文化的な風土に疑問をもってほしい。外圧によって押し付けられた日々の生活とその構造にもっと注意を向け、批評的な視線を持つべきなんだ。無意識に感覚的に吸い込んでいる周囲の動向から心と魂を独立させなければ」とリクリットは語る。

Tシャツにプリントされた図柄とメッセージという、ベタなほど素朴で直接的な手法を使った彼の活動はいつも通り身軽でレイドバックしているが、ストリートやSNS、YouTubeなどを媒介として、加速度的に世界へ伝搬していく〈やわらかな革命〉ともいえるだろう。

Photo:courtesy of Chaos OMOTESANDO / ELEMENT RULE, Chihe Sumiyoshi

■イベント情報

Do We Dream Under the Same Sky
(僕らは同じ空の下で夢を見るのだろうか)
会期:2018年6月8日(金)〜24日(日)
会場:Chaos(カオス)表参道
東京都渋谷区神宮前4丁目10番5号1F
Tel: 03-6432-9277
営業時間:11:00~20:00
http://www.chaostokyo.jp

Photo:courtesy of Chaos OMOTESANDO / ELEMENT RULE

Rirkrit Tiravanija /リクリット・ティラヴァーニャ

アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれ。 タイ、カナダ、アメリカなどさまざまな環境で育ち、現在はニューヨーク、ベルリン、タイを拠点に製作活動を行う。1990年代にニューヨークの近代美術館(MoMA)やギャラリーなどでタイ風の焼きそばやカレーをふるまうといったパフォーミングアートで一躍注目を浴び、以降、 観客とのコミュニケーションを重視し、アートとパブリック、そして個人的活動の境界線にまたがるリレーショナルなアートの第一人者として新しい概念を開拓してきた。個展はニューヨークのMoMA(97年)、ロサンゼルス・カウンティ・ミュージアム(99年)、 パリ市立近代美術館(05年)などで開催。日本での活動も多く、横浜トリエンナーレ(01、08 年)、CCA北九州(00年)、 東京オペラシティ・ギャラリー(02年)で個展が開催された。現在、山梨の清春芸術村にてジュースバーも制作中とか。