ローイングブレザーズは、意志で着る?感覚で着る

「ブレザーの起源がケンブリッジとオックスフォード大学のボート競技から始まったことはご存じですよね(補足すると1800年代にテームズ川で開催されたボートレースのこと。このときケンブリッジの選抜チームであるセント・ジョンズ・カレッジのレディ・マーガレット・ボートクラブのジャケットが鮮やかな緋色と白のストライプであったために、このシングル胸の上着をブレザーと呼ぶようになった)。

で、今季ビームスプラスが、ブレザーの原点を探ることをコンセプトにしたニューヨークのブランド『ローイングブレザーズ』(補足すると、このブランドのデザイナーは洋書『ROWING BLAZERS』の著者ジャック・カールソンである。彼は米国人ながら、オックスフォード大でレガッタクラブに所属し、映えある選抜チームのクルー=ブルーと呼ばれる、としてヘンリーロイヤルレガッタにも出場したらしい。ヴィンテージブレザー研究の当代第一人者)からチョイスしたのが、ダメージ加工を施したコットンブレザーなのです。

ボートクラブの選手は、クラブブレザーを先輩から後輩へ、代々受け継いでいく風習があります。ヘリテージされてきたブレザーには、破れやほころび、エンブレムを縫い付けた跡や、かっての所有者のネーム刺繍がついていたりする。このパッチポケットのテープは、そうした跡を隠すという意味で、あえて付けてみました」

これを聞いて筆者が注目したのは、今の若いお客様方は、こうした蘊蓄を好む時代に再びなったのか、ということであった。

考えてみれば、クラブブレザーをヘリテージしたり、ダメージの跡を綿テープで隠したりすることは、レガッタクラブに所属するクルーだけにとって意味をもつことである。彼らはそうした風習を、ファッションとしてでなく、クラブの伝統やOBたちの意志としてごく自然に受け継いできたのであろう。

いっぽう、ブレザー誕生の元祖でもあるレガッタクルーたちのこうした伝統的服装や風習を、なんて格好イイんだ!と憧れる人たちもいらっしゃるわけである。

無論ブレザーのこんな味出しのことは、お洒落に関心がない一般人には通じない話題である。またクラス社会が明確に在る、英国人の多くも関心がなかろう。興味を持つのは、英国に憧れを抱くスノッブな米国人か、戦後、アイビールックという一種宗教にも似た独特の風俗にかぶれた団塊世代の日本人男性や、その子孫なのではなかろうか。

仏教伝来がその後の日本人の生活感覚に大きな影響を及ぼしたように、アイビー伝来も日本人のファッション感に少なからず影響を残したと、筆者は考えている。

米国のエリート学校の一部だけに伝わる特殊なスタイルを掘り起こし、ファッションとして捕らえる。それは階級意識が明確でないフラットな日本社会だからこそスムースに受け入れられたことではないだろうか。

トゥーマッチなコーディネートに思われるだろうが、若者の間ではローイングブレザーズにラグビージャージーの合せはトレンドらしい/Photo:Shuhei Toyama

伝統や選民思想によって生まれたスタイルは、そこに所属する者の意志によって受け継がれるが、ファッションは感覚である。遠い外国のエリートの意志によって生まれた服装であろうが、おかまいなしにマネして格好良くなれば、それで充分にその感覚は充足する。

1960年代の日本の若者たちは、ラルフ・ローレンよりずっと早く、そのことに気づいていたのである。

しかしながら、ファッションは感覚である、とはいっても、単純に外観だけをマネたのではすぐにメッキははがれてしまう。そこで、服の由来や着こなしのTPOを語る伝導師たち(古くはVANの石津謙介、最近ではセレクトショップのプレスの方々)が活躍したのである。

とはいっても、いくら蘊蓄を学んでも、一般の若者が米国エリートの生活スタイルと同様になれるわけがない。そこで伝道師たちは、アイビースピリットとかトラッドマインドとかいう、感覚的な言葉を用いて、意志あるスタイルを誰もが受け入れやすいファッションへとすり替えたわけである。

具体的にいえば、エール大学に入学していなくても、そこのロゴマークが入ったスウェットシャツを着れば、アイビースピリットをアピールしたファッションだ、となるのである。あるいは、その資格などないのに、ブレザーには由緒あるカレッジやクラブ伝来のストライプタイをしなければならない、というコードがまかり通ったものである。

VAN時代のアイビースピリットと、セレクトショップ時代のトラッドマインドを比較すると、思い込みの強さという点では前者のほうが勝っているといえよう。言い換えれば、トラッドマインドは、よりファッション的で広域なものである。

で、今季のローイングブレザーであるが、これはヘリテージテーストというべき感覚ではないか。

スピリットからマインド、さらにテーストへ。はたしてトラッドファッション感覚は、意志あるスタイルに近づいたのだろうか、それとも遠のいたのだろうか?

いっぽう最後に、ビームスプラスのオリジナル企画の成熟度と素材に関する進化は、確実に上昇していることを申し添えておきたい。

Photo:Shuhei Toyama