泣けるファッションショーそしてコンサートでの大学教授の蛮行のことなど⁈

2000年前後のマックイーンやガリアーノのパリでのショーにはそういう瞬間があったらしいが、残念なことに私は見ていない。私も実際に見た80年代後半のゴルティエのショーはそれに比肩すると思うが、あれは目頭が熱くなるという種類のものではないだろう。

あ、80年代というと、ファッションショーではないが、セルジュ・ルタンスを起用したインウイのTVCFというスゴイのがあった。高田馬場のバーのカウンターでTV見ていたら泣けてきたのを覚えている。未完に終わったマーラーの交響曲第10番第1楽章をバックに流していた。あの頃の資生堂って行くとこまで行っていた。一体、何があったんだろう。実際このCFはカンヌ国際映画祭で金賞を受賞している。

最近の「コム デ ギャルソン」はウイメンズ、メンズともにこの80年代のセルジュ・ルタンスの世界に通じていると思う。デカダンスとアヴァンギャルド。彼岸から風が吹いている。パリコレで実際に見たら、泣いてしまうかもしれない。

ファッションに比べたら、オペラやコンサートで、目頭が熱くなったり、興奮して思わず「ブラヴォー」を叫んでしまう機会は少なくない。特に初老と呼ばれる年齢になると、ちょっといい演奏でも涙腺が緩む。困ったものである。ところで、最近、ある在京オーケストラの演奏会に行ったら、コンサートの心得なる小冊子がプログラムと一緒に渡された。コンサートの禁止事項がびっしり書き込まれていた。

【1】撮影&録音 【2】飲食 【3】居眠り(イビキと隣人への寄りかかり) 【4】駆け込み入場 【5】大量の香水 【6】席移動 【7】フライング拍手とフライングブラボー 【8】楽章間の拍手 【9】プログラムめくり音と飴玉袋開封音 【10】拍子とりと歌 【11】咳 【12】あまりにカジュアルな服装 【13】携帯電話やアラーム付き時計や補聴器のトラブル

もっともなことばかりだ。なんのことか?分からないのは、7だろうか。「指揮者のタクトが完全に降ろされるまで拍手はご遠慮ください」というアレである。最初に拍手したら景品がもらえるわけではないのに、弱音で終わる曲(チャイコフスキーの悲愴交響曲など)で、真っ先に拍手したり真っ先にブラボーして得意げな客がいまだにいる。

11も?だろうか。本当に無神経な咳が多い。咳をするなということではなくて、せめてハンカチでもあてたらどうでしょうか、というお願いである。咳を止めようと、飴玉の袋をビリビリ破く音!これは最悪だ。

しかし、最近あるコンサートでこうした禁止行為の上を行くとんでもない事態に遭遇した。サントリーホールで行われたベートーヴェン作曲のオペラ「フィデリオ」の演奏会形式の上演だった。衣装はコンサート用の普通の衣装で、演技も最低限のことしかしない。さらに、ヒロインが男装する込み入った話なので、演奏前に俳優(篠井英介)があらすじなどを話す時間が10分ほど設けられた。

その中ほどで、最前列にいた男性客が立ち上がって、プログラムなのかチラシなのか紙を丸めてステージを叩き、「さっさと演奏しろよ」と怒鳴ったのだ。会場はシーンと静まり返った。俳優は慌てず騒がず「下手な話で申し訳ありません。もうちょっとで終わりますからご辛抱下さい」とその男をなだめた。

ヒロインが男装して看守になりすまし刑務所に入れられた政治犯の夫を救出するオペラの解説に、この女形俳優がふさわしいのかどうかは別にして、言語道断の蛮行である。酔漢だろうと思ったが、持参したオペラグラスでこの狼藉者を観察すると、なんと音楽評論家のK。Kは某私立大学法学部教授で音楽評論はサイドビジネスである。

気に入らない演奏会で演奏途中にもかかわらず靴音高く退席したり、来日公演が予定されていた高齢の大指揮者の来日を阻止する新聞広告をドイツの新聞に載せたり、何かと騒動を巻き起こして来た御仁だ。

例のパクリ作曲家の佐村河内守の交響曲第1番「ヒロシマ」を事件発覚前にほめちぎって音楽評論家としては??なのだが、相変わらず「問題児」ぶりを発揮しているようである。この御仁の著作をほとんど読んでいる私としては、なんとも今回の蛮行は残念だ。邪悪な毒舌評論家として評価して来たが、邪悪な行動は本当にいただけない。こういう知行一致はただの迷惑である。

Photo:Akira Miura