ブリキ屋根・画廊の下、マティス風の切り絵と帽子の出会い

ところで筆者がかぶった2点の帽子のデザインを製作をしたのは、saki et showという今春デビューしたばかりのデザイナーふたりが、特別に作り上げた作品だ。

製作の目的は、民藝の染色工芸作家として知られる柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)の個展『わたしはマティスになりたかった』に併せて、帽子の展示を依頼されたからである。

90歳を超えても活動的な柚木の今回の個展作品は、切り紙で構成された素敵なものだった。いっぽう帽子のデザインは、かって柚木が手がけけた絵本『魔法のことば』をモチーフにして欲しい、という提案だったという。

『魔法のことば』は、イヌイットが伝承してきた昔物語をもとに、柚木が力強くプリミティブなタッチで絵にしたファンタスティックで奥の深い絵本。

会場は、渋谷区松濤のギャラリーTOMで開催されたものだが、小規模ながらスパイスがピリッと効いて、なんとも粋で潔い個展になっていた。

なにより、熟達した作家の踊るような色彩と若い感性のぶっかりあいが面白く、筆者もついつい嬉しくなって、作品の帽子までかぶらせてもらったわけである。

では、そろそろsaki et showこと、石田早姫と石田翔について紹介することにしたい。

ふたりは、パリ直伝の技術(オートモード。モード逍遥#23で紹介)を駆使して帽子作りの名人の名を欲しいままにした故平田暁夫の孫にあたる血統。いわば帽子界のサラブレッドである。

彼らの新ブランドsaki et showは2018年4月に『オートモード平田』から発信された。コンセプトは、日常でかぶれる帽子、遊び感覚でかぶれる帽子、新しい自分を発見できる帽子、というもの。

オートモードというテクニックは、帽子の型から1点ずつ手作りする完全アトリエ製作である。いっぽう、この新ブランドはベースデザインまでをアトリエでおこない、製作はモノ作りにこだわりをもつ日本の工場でやっている。そのため価格的にも買いやすい設定となった。

姉(saki)&弟(show)とも、幼い頃から美の英才教育を受けた節がうかがえ、ファッションセンスは抜群。どちらかといえば、sakiのほうが帽子作りの職人気質を受け継いでいるようで、デザインも理知的な感じがする。いっぽうshowの帽子や絵は、限りなく自由で、ときに帽子デザインの枠を飛び越えてしまうような勢いがある。

この異なる個性のぶつかり合いと、姉弟ならでは補い合いから生まれるデザインが、このブランドの魅力になるのではないか。

デビューコレクションのなかでは、はしご状のレースをクラウンの周囲に施したマリーン風のキャップと、ポロ競技の選手がかぶるようなブリムの短いクラシックタイプのキャップが、筆者は気に入っている。

商業製品としてのデビューコレクション、その2カ月後には、正反対ともいえるアート的な帽子の製作。苛酷なスケジュールにもかかわらず、ふたりは楽しみながらモノ作りをする手法を、柚木沙弥郎翁から吸収したのではないか。

鉄は熱いうちに打て。この個展にインスパイアーされた後の、彼らの秋冬コレクションが待ち遠しい。

Photo:Shuhei Toyama