祝カンヌ国際映画祭パルムドール!是枝裕和監督の『歩いても歩いても』に流れるロマンティックな歌謡曲『ブルー・ライト・ヨコハマ』

この『万引き家族』は、いわば日本の闇に光を当てている。この家族の生活ぶりがすごい貧乏で、母(樹木希林)の年金をアテにし、家族全員で万引きして生活していて、観ていてあんまりワクワクするものがない。いわば、イギリスの映画作家ケン・ローチが、炭鉱不況から綿々と続くイギリスの闇の部分に光を当てるようなものだ。

でも、オリジナル脚本でこれを仕立て上げた是枝監督は素直にえらいと思う。別にベストセラー小説の映画化でもなく、バカ売れした漫画の映画化でもないのだ(日本映画はオリジナル脚本で勝負すべきだ)。パルムドールを受賞して、本当にめでたい。そして巨匠と呼ばれることになった映画作家が、僕と同世代というのが、また嬉しい。年齢でいえば、わずか1コ下なのだ。

是枝監督作品において、たいていの主人公の名前は「良多」であった。これは小津安二郎監督の主役である笠智衆が『晩春』や『東京物語』で「周吉」だったように、2008年の『歩いても歩いても』(英題Still Walking)の阿部寛演じるのは横山良多、2013年のカンヌ国際映画祭審査員賞受賞した『そして父になる』(英題Like Father, Like Son)の福山雅治演じるのは野々宮良多、2016年の『海よりもなお深く』(英題After the Storm)の阿部寛が演じるのは篠田良多であった。

しかし、前作『三番目の殺人』(英題The Third Murder)の役所広司は「三隅高司」で、福山雅治は「重盛朋章」。この『万引き家族』のリリー・フランキー演じる主人公は「柴田治」であり、「良多」でないところがミソかもしれない。

祝パルムドールってわけで、是枝裕和監督作品から1本取り上げたいと思う。

阿部寛主演の是枝裕和監督・脚本・原案作品『歩いても歩いても』は、15年前に亡くなった兄の命日に、横山良多が家族を連れて実家に帰省する、という話だ。

『歩いても歩いても』
Blu-ray5月25日発売 ¥3,800+税
発売・販売元:バンダイナムコアーツ
©2008「歩いても 歩いても」製作委員会

ある夏の終わり。横山良多(阿部寛)は、再婚したばかりの妻ゆかり(夏川結衣)、ゆかりの連れ子のあつし(田中祥平)とともに電車で実家に向かっていた。今日は15年前に亡くなった横山家の長男、純平の命日だった。だが、失業中の良多は気が重い。実家に着いて仏壇に手を合わせた後、良多は母のとし子(樹木希林)、引退した開業医の父・恭平(原田芳雄)、姉のちなみ(YOU)らと食卓を囲み、純平の思い出話に花を咲かせる。

午後、とし子と良多一家の4人で墓参りへ。途中、とし子とちなみ夫妻の同居が話題になるが、とし子は良多が戻ってきにくくなるという配慮から、これを否定する。

墓参りから戻ると、今井良雄という青年が線香を上げに来ていた。純平は、海で彼を助けようとして溺死したのだった。とし子は彼に、来年も来るようにと声を掛けて見送るが、恭平は「あんなやつのために」と悪態をつく。その言葉に、良多は「医者がそんなに偉いんですか」と声を荒げる。

ちなみ一家が帰り、良多一家と老夫婦だけの夕食。ゆかりはその場を盛り上げようとするが、普段会話の少ない老夫婦は険悪な雰囲気になっていく。やがて、おもむろにレコードを取り出してくるとし子。いしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』。30年以上も前の恭平の浮気にまつわる曲で、とし子が浮気を知っていたことを恭平は初めて知る。

良多とあつしの入浴中、とし子とゆかりの間で、良多の子供を作るかどうかという話題になる。だが、とし子は諦めかけており、それを聞いてゆかりは顔を強張らせる。翌朝、あつし、恭平と散歩に出る良多。脚が悪く遅れがちな恭平を心配する良多は、いつかあつしを連れて一緒にサッカーを見に行こうと約束するのだった。

それから7年。恭平もとし子も亡くなり、良多一家は海辺の墓地にいた。夫婦の傍らには高校生になったあつしに加え、4歳ぐらいの女の子の姿。遠くで、海だけが昔と変わらずに青く輝いていた……。

『ブルー・ライト・ヨコハマ』は、1968年12月25日にリリースされた、いしだあゆみの26枚目のシングル。昭和の歌謡曲。作詞橋本淳、作曲筒美京平。150万枚を超えるベストセラーで、いしだあゆみは1969年紅白歌合戦に出場した。

この映画が公開された年、是枝監督をインタビューしていろいろと訊いている。この『ブルー・ライト・ヨコハマ』は、『海よりもなお深く』に登場するような団地に暮らしていた是枝監督が子どものころ、口ずさんで自然と耳に入っていた曲だそうだ。

余談だが、1970年代末まで日本の音楽が禁止されていた韓国で流れていたほぼ唯一の日本の歌謡曲であり、「韓国人がもっとも知っている日本の歌」であった。

画像提供:発売・販売元:バンダイナムコアーツ
©2008「歩いても 歩いても」製作委員会
動画:criterioncollection – YouTube