艶やかな洋のジャーマンアイリスと和の美を呈す燕子花

花びらが重なり合うわけでもなく、上下別々に分かれて咲くので、花自体の大きさは驚くほど大きかった。これまでにジャーマンアイリスを見たことがないわけではないのに、一体自分は何を見ていたんだろうと思う。

下花弁はビロードのような深みのある紫で上花弁は赤を含んだ薄紫色だ。下花びらの付け根の部分は白のまだらな縞模様になっていて、そこから出ている「髭(ひげ)」と呼ばれるものはオレンジ色。この全体の色合いと花自体が醸し出す雰囲気が何とも言えず、妖艶であり、豪華、そして高貴である。

高さもすらりと伸びて1メートルは優に越す。夕方、風が強くなってきたので室内へと移動して、そして夜もまたじっくりと対峙することとなった。

見れば見るほど魅力的な花だ。長く見ていても飽きない。ずっと見ていたかった。今までにこんな気持ちが揺らぐような花に出会ったことがあっただろうか? オールドローズの虜になって何種類ものオールドローズを育てたこともあったが、その時の感情ともちょっと違う。

ジャーマンアイリスにすっかりノックアウトされてしまった。今まで経験したことのない「花の魔力」に当てられたのかもしれない。

花を育てることは本当に楽しく、中でもいちばん花を見る時がもっとも幸せに感じる。我が家のジャーマンアイリスは少しずつの時間差、日にち差で一茎に5つの花を咲かせてくれたが、いちばん花がいちばん長く咲いて、あとはあっという間に咲いてあっという間に萎んでしまった。

アイリスの花はこれまでにも育てているが、種類が違い、今年のジャーマンアイリスとは同じアイリス系と言っても全く印象が異なるのであった。

アイリスはアヤメ科の花全体をさし、日本語では「アヤメ」。カキツバタもハナショウブも全てアイリスである。

では、ジャーマンアイリスとはどんな花かというと、地中海沿岸から中近東原産のゲルマニカ種といくつかの原種アイリスとの交配によって作られた園芸品種をいい、古くからヨーロッパで愛されてきた花の一つである。でも、「ジャーマン」というのが花名についているのはなぜなのかと疑問が湧く。それはゲルマニカというドイツアヤメが母体となっているためなのだそう。

ジャーマンアイリスは1800年代に品種改良されてヨーロッパで生まれ、1920年ごろにアメリカに渡り、人気が爆発して、さらに品種改良されたという歴史を持っている。その結果、品種が豊富で花の色もさまざま存在する。日本には第二次大戦後に入ってきたそうだ。

ジャーマンアイリスが「洋」のアイリスに対して、日本には古くから愛されてきた「和」のアイリスがある。それはハナショウブ(花菖蒲)やカキツバタ(燕子花)だ。同じアヤメ科の植物なのに、育ててみて気づいたのは、ジャーマンアイリスは湿気を嫌い乾燥したアルカリ性の土壌を好むのに対して、燕子花は全く逆の湿地帯の酸性の土壌に生え、花菖蒲はその中間で畑でも湿地でも栽培できることである。

燕子花(カキツバタ)といえば国宝、尾形光琳筆「燕子花図屏風」がすぐに思い浮かぶが、それを所蔵している南青山の根津美術館には、庭園の池に毎年、3000本の燕子花が咲き誇る。今年もその時期になったので行ってきたが、茶室の前に広がる群生した燕子花は、それはそれは見事で、日本的な美の世界そのものであった。

Photo:Ayako Goto