『遊星からの物体X』、閉鎖された南極基地に不気味に響くスティーヴィー・ワンダー『迷信』

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(原題Darkest Hour)で主演ゲイリー・オールドマンの特殊メイクをやった辻一弘がアカデミー特殊メイク賞を受賞して話題を攫ったが、特殊メイクの第一任者はロブ・ボッティン、1990年に『トータル・リコール』(原題Total Recall)でアカデミー特別業績賞を受賞している。撮影は1978年の『ハロウィン』(原題Halloween)、1980年の『ザ・フォッグ』、1981年の『ニューヨーク1997』(原題Escape from New York)のディーン・カンディ。そして音楽はイタリアの巨匠エンニオ・モリコーネ。

本作には元ネタがあって、「侵略SFの古典」といわれる1951年のRKO映画、クリスチャン・ナイビィ監督、ハワード・ホークス製作作品『遊星よりの物体X』(原題The Thing from Another World)の完全なるリメイク。というよりも、原作であるキャンベルの短編小説『影が行く』の忠実な映像化になっている。

「通信機能が麻痺してしまった南極越冬基地」という閉鎖空間が物語の舞台で、最高に怖い。これはもう、脚本の勝利と言える出来栄えなのだ。そして誰が人間ではないのか、誰が生きもの(The Thing)と同化したかまったくわからない。そうした緊迫化した状況下における隊員たちの心理サスペンスと、それを打開しようとする姿が描かれる。最後まで明快な結末は見えないのだ。

プロローグは約10万年前、宇宙から飛来したUFOが地球に引き寄せられ、大気圏で炎に包まれながら南極へと落下したことに始まる。

1982年、冬の南極。ノルウェイ観測隊のヘリが、1匹の犬を追って全12名の隊員がいるアメリカ南極観測隊第4基地へ現れた。手違いからヘリは爆発。一人生き残ったノルウェイ隊員は基地内へ逃げた犬を追って銃撃を続け、隊長のギャリーにより射殺される。

©1982 Universal Studios. All Rights Reserved.

殺害するべく犬を追っていたノルウェイ観測隊に一体何があったのか? 真相を究明すべくノルウェイ基地へ向かったヘリ操縦士のマクレディ(カート・ラッセル)らが見つけたものは、燃え上がり廃墟と化したノルウェイ観測基地。自殺し凍りついた隊員の死体、そして異様に変形し固まったおぞましい焼死体だった。一行は調査のため、残されていた記録フィルムと焼死体を持ち帰る。

生き延びた犬は基地内を徘徊し、夜になると犬小屋に入れられた。その途端犬は変形し、グロテスクな姿の「生きもの(The Thing)」となり、他の犬たちを襲い始めた。だが、犬の咆え声を聞いて駆けつけたマクレディらにより火炎放射器で焼かれ撃退される。

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ノルウェイ観測隊の記録フィルムに映し出されたのは、雪原の巨大なクレーターと、約10万年前のものと推測される氷の層にある巨大な構造物を調査している場面だった。やがて持ち帰った焼死体が動きだし、蘇った「生きもの」が隊員の一人を襲ってその姿に成り代わった。結局その「生きもの」は、隊員たちの手で他の「生きもの」の死骸とともに外で焼却処分された。

調査の結果、「生きもの」は取り込んだ生物に同化・擬態して更に増殖することが可能で、もし人類の文明社会にそれがたどり着くと、およそ2万7,000時間で全人類が同化されることがコンピュータの試算により判明する。それを知った主任生物学者のブレアが誰も基地の外へ出られないようにするため無線機やヘリ等を破壊してしまい、基地は完全に孤立する。その環境で隊員たちは、誰が「生きもの」に同化されているか判断出来なくなり、疑心暗鬼に陥る。このままでは皆が「生きもの」と化し、人類の文明社会へと出てしまう。果たして隊員たちの、人類の運命は?

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南極基地で鳴り響くスティーヴィー・ワンダー『迷信』(原題Superstition)。重低音か響くイントロがすこぶるカッコいい。彷徨くハスキー犬のイメージと、また「生きもの」に変化する特殊メイクが恐ろしい。

この曲は、スティーヴィー・ワンダーが1972年10月28日にリリースしたアルバム『トーキング・ブック』(原題Talking Book)に所収されている。『迷信』と『サンシャイン』の2曲が全米第1位になった。『迷信』は、ジェフ・ベックが在籍するイギリスのハードロックバンド、ベック・ボガート&アピスへの提供楽曲として書き下ろされたが、スティーヴィー自身のバージョンが先に大ヒットした。

カート・ラッセルは1951年生まれ。ジョン・カーペンター監督作品では、1981年の『ニューヨーク1997』(原題Escape from New York)のスネーク・プリスキン、1982年の本作のR.J.マクレディ、1996年の『エスケープ・フロム・L.A.』(原題Escape from L.A)のスネーク・プリスキンが忘れられない。他には、1991年のロン・ハワード監督作品『バックドラフト』(原題Backdraft) や、1996年のスチュワート・ベアード監督作品『エグゼクティブ・デシジョン』(原題Executive Decision)の強い男のイメージがある。

画像提供:NBCユニバーサル・エンターテイメント
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動画:Jo Fission – YouTube