クリント・イーストウッド監督の無差別テロを描く『15時17分、パリ行き』に、ノホホンと流れるアコーディオンの調べ

2015年8月21日、アムステルダム発の高速列車タリスが目的地のパリへ向けて出発した。フランス国境内に入ったのち、突如イスラム過激派の男が自動小銃を発砲し、車内はパニックに。恐れた乗務員が乗務員室へ逃げ込むなか、同乗していたヨーロッパ旅行中のアメリカ人の3人の若者が(これが本作の主人公になる)、500人を超える乗客を守るために立ち上がるという話。完全なる実話なのだ。

アントニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーンの幼馴染3人がこの映画の主人公だ。カリフォルニア州サクラメントで育った3人は、いずれも労働者階級出身で、3人のうち2人は米軍から休暇を取ってヨーロッパ旅行を楽しんでいる最中だった。

アントニー・サドラーとスペンサー・ストーンの2人はローマからヴェネチアへ行き、バックパックによるヨーロッパ旅行をスタート。アフガニスタンでの軍務についていたアレク・スカラトスはドイツのベルリンにいるガールフレンドとのデートを楽しんだ後、アムステルダムで2人と合流して高速列車タリスに乗り込むわけだ。ドイツにいたアレク・スカラトスは、まさに旅行ムード満喫中という感じで、サッカーのバイエルン・ミュンヘンの背番号25、トーマス・ミュラーのユニフォームまで着ている。

映画は、3人が中学生だったころに遡る。ともにシングルマザーに育てられたスペンサー・ストーンとアレク・スカラトスはいつもくっついて行動していた。アントニー・サドラーが仲間に入ったのは、同じ中学校で一緒になっていたとき。1968年の『奴らを高く吊るせ!』(原題Hang ‘Em High) や1972年の『荒野のストレンジャー』(原題High Plains Drifter) を観て育った3人は、ジョークを言い合ったり、スポーツをしたり、校長室に呼び出されたりしながら、多くの時間を過ごした。遊びも、モデルガンを使った戦争ごっこのサバイバルゲームをしたり。この1時間近くの少年時代の描写は、2003年の『ミスティック・リバー』(原題Mystic River)の主人公3人の描き方に、とてもよく似ている。

『15時17分、パリ行き』3月1日(木)、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他 全国ロードショー/配給:ワーナー・ブラザース映画 ©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC

3人のうち2人が軍人になっている。1人はオレゴン州州兵軍、もう1人は米空軍上等空兵であった。もう1人のアントニー・サドラーはカリフォルニア州立大学サクラメント校の学生だった。映画の中盤には厳しい軍人訓練の描写になり、デブだったスペンサー・ストーンが鍛えてマッチョになり、2014年の『アメリカン・スナイパー』みたいな過酷な描写になる。

テロリストは自動小銃AK-47とドイツ製のルガーピストル、ボックスカッターナイフ、270発の弾丸を所持していた。その彼に、スペンサー・ストーンが猛然とタックル! それにアレク・スカラトスも加わって、テロリストを確保した。その間、わずか5分ばかりの光景だ。なので、黒澤明の『天国と地獄』を超える列車サスペンスを期待する人には少々肩すかしかもしれない。

いわば2009年のクエンティン・タランティーノ監督作品『イングロリアス・バスターズ』(原題Inglourious Basterds)における映画内映画『国家の誇り』で、ダニエル・ブリュール演じたフレドリック・ツォラー国防軍一等兵が主役を務めたように、この映画の主役はズブの素人のアントニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーンの3人で、この3人がそのまま主役を演じている。なので、『アメリカン・スナイパー』のブラッドリー・クーパーや、『ハドソン川の奇跡』のトム・ハンクスほど、観ているこちら側には響いてこないので、エモーション的にはどうしても希薄なのが残念だ。

最後に上映時間について触れたい。1992年の『許されざる者』(原題Unforgiven)の131分、2004年の『ミリオンダラー・ベイビー』(原題Million Dollar Baby)の133分、2008年の『グラン・トリノ』(原題Gran Torino)の117分と、クリント・イーストウッド監督作品は2時間近くないと、ある程度のコクは感じられない。それが『ハドソン川の奇跡』で96分だった上映時間は、遂にこの『15時17分、パリ行き』でこれまででもっとも短い94分になった。

アントニー・サドラーとスペンサー・ストーンが登場するローマのシークエンスは、ちょっとしたローマ観光といった趣があって楽しい。1953年のウィリアム・ワイラー監督作品『ローマの休日』(原題Roman Holiday)や、1960年のフェデリコ・フェリーニ監督作品『甘い生活』(原題La dolce vita)でおなじみの、コロッセオ、トレヴィの泉、スペイン階段といった観光名所がズラリである。

そこに流れるのが、イタリア系アメリカ人ディーン・マーティンなんかでおなじみのカンツォーネ『ヴォラーレ』なのだ。最近ではジプシー・キングスがカバーしたバージョンがビールのCMに使われている。

この曲は、正しくは『Nel blu dipinto di blue』というイタリア語のタイトルがあり、「青く染まった青空の中で」という意味。1958年のサン・レモ音楽祭の優勝曲で、そのときはドメニコ・モドゥーニョという歌手が歌った。

この映画に使われたバージョンは、アンジェロ・ディ・ピッポのアコーディオンによる『Nel blu dipinto di blue』。やさしい感じがする音だ。これって、2012年のウディ・アレン監督作品『ローマでアモーレ』(原題To Rome with Love)でもサウンドトラックに使われていた。

画像提供:ワーナー・ブラザース映画
動画:Jesse Eisenberg Brasil – YouTube