ヘンリー・マンシーニのラテンサウンド『ルージョン』がめちゃくちゃカッコいい『ビッグ・リボウスキ』

1991年、湾岸戦争下のロサンジェルス。1970年代のヒッピー生活を引きずる中年独身男デュードことジェフリー・リボウスキ(ジェフ・ブリッジス)はある晩、ふたりのチンピラに襲われる。女房の借金を返せと言うが、まったく身に覚えのないこと。チンピラは同姓同名の富豪ビッグ・リボウスキ(デイヴィッド・ハドルストン)と彼を間違えたのだ。

『ビッグ・リボウスキ』ブルーレイ&DVD発売中/発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ©Polygram Filmed Entertainment、Inc. 1998

怒りがおさまらないデュードは唯一打ち込んでいるボウリングの仲間のウォルター(ジョン・グッドマン)とドニー(スティーヴ・ブシェーミ)にことの次第を話す。するとヴェトナム帰りでいまだ血気盛んなウォルターは、富豪のリボウスキにねじこめとけしかける。デュードは早速富豪を訪問したがすげなく追い返された。ところが数日後今度は富豪から呼び立てられ、妻バニーが本当に誘拐されたので協力してほしいと要請される。

ところが100万ドルの身代金の受け渡しの現場に強引についてきたウォルターが勝手に狂言誘拐と決めつけ、金ではなく下着の入ったカバンを渡したばかりか機関銃まで乱射して大混乱、あげくは大金の入ったカバンを車ごと盗まれた。大弱りのデュードを呼び出した富豪の義理の娘でフェミニストにして前衛アーティストのモード(ジュリアン・ムーア)は、彼に事件は彼女が管理する財団から金を引き出すために仕組まれたものだと告げる。キナ臭い展開に困惑するデュードをまた呼び立てたのが、ポルノ映画界の大立者ジャッキー・トリホーン(ベン・ギャザラ)。ようやく真相が見えてきた。

『ビッグ・リボウスキ』ブルーレイ&DVD発売中/発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ©Polygram Filmed Entertainment、Inc. 1998

富豪は財団の金をわがものにするために妻の偽装誘拐を仕組んだのだ。呆れはてたデュードだが、ニヒリスト(ピーター・ストーメア、フリー、トルステン・ヴォルグ)と名乗る利用された犯人一味は黙っていない。ボウリング場の駐車場で一戦交えたはいいが、巻き添えを食らったドニーが心臓麻痺を起こしてぽっくりとあの世行き。ふたりは海辺でドニーの死を弔い、ウォルターは灰を撒き散らした。かくして珍騒動は終わりを告げたが、デュードたちの日常は変わりなく続いていくのだ。

最初のオープニングシーンで、西部劇によく登場するタンブルウィードがゴロゴロ、1930年代に活躍したバンド、サンズ・オブ・パイオニアズの『タンブリング・タンブルウィード』(原題Tumbling Tumbleweeds)が流れる。そしてスーパーマーケットで牛乳を買うシーンから自宅をチンピラに襲われて、ボウリング場でのオープニングタイトルになり、ボブ・ディランの『ザ・マン・イン・ミー』(原題The Man in Me)が流れる。

本作の音楽を担当したのは、コーエン兄弟とスパイク・ジョーンズの全作品のスコアを作曲したカーター・パーウェル(1955-)。

このサウンドトラックの音楽を担当したのは、のちに2000年の『オー・ブラザー!』(原題O Brother!) や、2005年のカントリー歌手ジョニー・キャッシュの伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(原題Walk the Line)でグラミー賞を受賞するT=ボーン・バーネット(1948-)。ボブ・ディラン・バンドのローリング・サンダー・レビューでのギタリストだったバーネットは、ロイ・オービソン、ジョン・メレンキャンプ、ロス・ロボス、エルトン・ジョン&レオン・ラッセル、エルヴィス・コステロと妻ダイアナ・クラール、矢野顕子、トニー・ベネットなどのアルバムを制作。

なのでこのサウンドトラックも、モーツァルトやムソルグスキーから、エルヴィス・コステロ、ディーン・マーティン、サンタナ、ジプシー・キングスによる『ホテル・カリフォルニア』までいろんな楽曲が玉石混交なのだ。

おもしろいのは、主人公デュードのモデルとなったのは、過激な反戦運動で知られる映画プロデューサーのジェフ・ダウド。ダウドはコーエン兄弟の処女作『ブラッド・シンプル』の配給先を探しているときにそれを手助けした、いわば兄弟にとっての恩人ともいえる人物であった。

デュードはヒッピー崩れのダメ男に描かれており、ヒッピー文化全盛のころの1970年のクリアデンス・クリアウォーター・リヴァイバル『ジャングルを超えて』(原題Run through the Jungle) が好きだったりする。

この映画はロンドンを拠点とする〈ワーキング・タイトル・フィルムズ〉製作作品であり、製作総指揮にトム・ビーヴァンとエリック・フェルナーが名を連ねている。ワーキング・タイトル・フィルムズの作品には、『ラブ・アキュチュアリー』(原題Love Actually)、『ユナイテッド93』(原題United 93)や『つぐない』(原題Atonement)などがある。

1970年の『バズバンズ』(原題Husbands)や1978年の『オープニング・ナイト』(原題Opening Night)など、ジョン・カサヴェテス監督作品に出演が多いベン・ギャザラが、ヒュー・ヘフナーと思しきリッチなポルノ王の映画プロデューサーが怪しげに登場する。彼は闇金融のボスという裏の顔を持ち、バニーを探しているのだ。

その大邸宅で流れる音楽が、エキゾチックで聴きものなのだ。1958年のオーソン・ウェルズ監督作品『黒い罠』(原題Touch of Evil)でラテン音楽に影響を受けた音楽を作り上げた音楽家ヘンリー・マンシーニ(1924-1994)の『ルージョン』(原題Lujon)。英名『スロー・ホット・ウインド』(原題Slow Hot Wind)。

ヘンリー・マンシーニは、『ティファニーで朝食を』(原題Breakfast at Tiffany’s)、『ハタリ!』(原題Hatari!)、『いつも2人で』(原題Two for the Road)、『ひまわり』(原題I girasoli)、『ピンクパンサー2』(原題The Return of the Pink Panther)などの作曲をしたアメリカの音楽家。

この曲は元々アフリカの民族楽器(打楽器)の呼び名で、鉄琴に似たルージョンにより、ジャズドラマーのシェリー・マンがイントロの10小節を演奏している。

この『ルージョン』は、1959年にマンシーニがCBSのテレビシリーズ『ミスター・ラッキー』(原題Mr. Lucky)のために書き下ろしたインストゥルメンタル曲で、1961年のミニアルバム『ミスター・ラッキー・ゴーズ・ラテン』(原題Mr. Lucky Goes Latin)に収められている。アメリカ西海岸の一流ミュージシャンが多数集められ、マンシーニ独特のエキゾチックで、ゴージャスなサウンドになっている。

この曲は『ビッグ・リボウスキ』のほか、2000年のベン・キングズレー主演&ジョナサン・グレイザー監督作品『セクシー・ビースト』(原題Sexy Beast)や、2008年のホアキン・フェニックス主演&ジェームズ・グレイ監督作品『トゥー・ラヴァーズ』(原題Two Lovers)などに使われている。

画像提供:NBCユニバーサル・エンターテイメント
©Polygram Filmed Entertainment、Inc. 1998
動画:steven alejandro – YouTube