朝の儀式はヴェレダのシェービングクリーム!?

床屋によると坊主刈りは、電動バリカンで簡単にできそうだが、難しい技術のひとつだそうだ。頭蓋骨は左右対称に整った人はまれで、凹凸もある。それらの欠点をうまくカバーして、格好良く見せるのが腕の見せ所。

「昔は、愛用の手動バリカンをいくつか使ってやったもんでさぁ」と、親父は懐かしむ。

そういえば今は、「床屋の剃刀も替え刃式になったね」と、筆者。そこで浮世床の話題は、髭剃りに移行した。

「そうなんすよ。以前は仕事があがると、鳴滝の仕上げ砥っていう高価な砥石で刃を研いだものなんですがね、今はそういう職人は少ないですからねぇ」

髭剃りといえば、昔の西部劇映画には必ず髭剃りのシーンがあって、男優たちは皆格好よくそれを演じていたっけ。

荒野を旅した男が鞍を降ろし、居酒屋と曖昧宿を兼ねた店へ入り酒を注文する。分厚いショットグラスに注がれた液体は怪しげなニトログリセリンのような代物。それを何げない顔でグッと流し込み、部屋を頼む。

そして何日にほったらかしていた髭を、ベルトの革で研いだカミソリでバリバリと剃りあげるのだ。このときの表情に、俳優それぞれの味が出る。筆者はジェームス・コバーンが贔屓であった。

西部劇のこうしたシーンで重要なのは、男たちが風呂を浴びて髭を剃る前に、必ず酒場で一杯ひっかけていることだ。さらに彼らは、さすらい旅のミニマムな荷物のなかに必ず愛用の剃刀をもぐりこませている。

つまり髭剃りとは、男の儀式のようなものなのであろう。

旅にも、使い慣れた髭剃りを持って行く人がいる。じつは筆者もそのひとりだ。朝の髭剃りは、いつもの作法通りにやらないとどうも調子が狂うからである。

旅の荷物に入れるのは、T型シェーバー、シェービングクリーム、ブラシなどである。

以前は、木製のボウルに入ったブランドモノの固形シェービングソープを使用していたのだが、高価だし使い勝手も悪いので、現在は使い終わった木製の小型ボウルだけを残し、ドイツ製のヴェレダというチューブ入りのシェービングクリームを愛用している。

Photo:Shuhei Toyama

摂氏39度に調整した直径10.5cmほどの木製ボウルにヴェレダのシェービンビングクリームを小指の先ほど入れる。床屋で使うような実用的な髭剃りブラシに軽くぬるま湯を含ませてから、木製ボウルに取ったクリームを手早く撹拌する。すると最初は水とクリームが分離して泡立ちにくいが、ある瞬間から程よく空気も混じり、ふっくらとしたごく細かい泡がボウルに盛り上がってくるのである。

ヴェレダの場合は泡に少し粘り気があり、ブラシに乗せて顔に塗ったときに具合よく髭に馴染むところが気に入っている。

缶入りのシェービングフォームを試したこともあるが、簡便すぎて馴染めなかった。メンソールのひんやり感も余計だと思う。

日常に毎日使うものは、お米のように飽きないものがいい。髭剃りクリームも、高価な香料など使用していない、シンプルでスタンダードなもので充分だ。ただし中途半端に工夫したものは、逆にチープな感じがして使用する気にならない。ヴェレダはそのバランスの具合が良いのだ。

慌ただしい一日が始まる前に、あえて時間をかけて髭剃りに集中する。すると不思議なことに、自分が一瞬リセットされて、フレッシュな気持ちで仕事に向き合えるのである。

剃刀は、西部男が使うような折り畳み式のレイザーに憧れているが、今のところジレット・フュージョンの5枚刃を常用している。

電動式を好まないのは、あれは髭を刈るのであって、剃っていないからである。

髭を剃った後は、ローションやクリームをベタベタやることはない。なぜって、西部劇でそんなことをやる奴はひとりもいないからでもある。

Photo:Shuhei Toyama