子育ての苦悩と共に疾走する康本雅子5年ぶりの新作『子ら子ら』

ダンサー、振付家の康本雅子は、特にダンスを学んだ経歴はなく、20代の頃バックパッカーとしてアジア、アフリカなど放浪する間にダンスの魅力に目覚め、帰国後コンテンポラリーダンスの世界に足を踏み入れた。

NHK『トップランナー』への出演、Mr.Childrenや一青窈、ASA-CHANG&巡礼らのMV、松尾スズキの舞台などへの振付・出演と、領域を超えた活動が高く評価され、根強いファンをもつ。

康本は、震災と原発事故、第一子の誕生をきっかけに家族で福岡へ移住した。

2012年に発表された『絶交わる子、ポン』は衝撃的な作品だった。
群像劇を通して「男女の関係性、生殖、本能」というテーマを観るものに浴びせ、ひりひりと刺激を送ってきた。

個性をぶつけ摩擦しあうダンサーと役者たちの鍛えぬかれた身体から動物の性と生々しい色気が匂いたち、劇場を去った後もずっと棘のように抜けずにいた作品だ。

なかでも康本と遠田誠(まことクラヴ主宰)が執拗に絡み合いとスレ違いを繰り返すシークエンスは、こっちの頭までおかしくなりそうな緊迫感でエンドレスに突き刺さってくる。

「めった刺しですね。これ終わらなくていいダンスなんじゃないかとフッと思うくらい」とその後のインタビューで語った彼女の覚悟が、無数の精子が巨大な卵子に降り注ぐラストシーンでとどめを刺した。

そのように自身の内側から溢れ出る抑えきれない「本能的な危機感覚」を主題とした康本雅子のパフォーマンスは、時として時代の要請とガチで組み合い、同時代のオーディエンスを惹き付けてきた。

しかしアーティスト天国ともいえる京都へ引越したにもかかわらず、やがて誕生した次男が難病指定の病気を抱えることもあり、昨年まで彼女には創作に自身を傾ける余裕は心身共になかった。

子がやって来た。吸われまくって目ん中入れてかき混ぜた後ぶっ叩いたハハハ泣いてみた。

これは本作『子ら子ら』に寄せられたテキストの冒頭だ。

5年ぶりとなる新作はズバリ、母親と子どもを題材としたもの。康本のほか、新進気鋭の女優でシンガーでもある小倉笑が出演し、エイミー・ワインハウスばりの強烈なヴォイスを聴かせる。

京都初演に際して康本は、「子ら子らと言いつつ、お陰様で子に見せるには憚られる作品になりました。でもいつの日か、このことだったか!と思い出して欲しい」とコメントしている。

たしかに(相変わらず)際どい台詞や身も蓋もないシーンも散りばめられ、彼女自身の個人的な生活と苦悩を赤裸々に描写する展開には何度もドキッとさせられた。

ただでさえ責任ある仕事や創作活動をもつ母親にとって、本来なら歓喜に溢れている子育てには常に行き場のない「焦燥」や「揺らぎ」「惑い」が尽きないことだろう。

まして、小さな身体で病と闘う息子を守り育てる緊張感は想像を絶している。(一方、長男はやんちゃだが弟思いで逞しく育ちつつあり頼もしい)

「2012年から、福岡、京都と暮らしていく中で、時間感覚が緩くなっていったり、子供がもう一人増えて子育てに専念する期間を得たりと、私生活が激変したのでなかなかつくる気持ちになれなかったのが正直なところなのですが、今回重い腰をあげてつくったことで、自分の中の変化を客観的にみることができた気がします。
今回、初めて子育てをテ-マにしたので、渦中の身としては否が応でも私小説みたいな内容になりました。子供が育つにつれ色々な感覚にも慣れてしまうし、子供への愛情の種類も変わっていくので、今だけの感覚を改めて確認したような作業は楽しくも辛くもありました。
全ては過ぎていき、変わっていき、忘れていくという当たり前のことなのに、ずっとそこに変わらずあると思い込んでいるもの、もうそこにしがみつく必要は全然ないという事を再認識しました。まぁたまにはしがみついちゃうけど…」(康本雅子)

京都初演を観てグッときたのは、狭いステージと客席のフロア全体を使って康本と小倉が演じる生々しい親子の日常のなかに、崖っぷちのストレスと同時に、「いま偶然にここにあること」を受容する腹の括り方を見たからかもしれない。

「京都ではライブハウスでやったので、横浜の会場にむけてかなりつくり替えています。あと初演ではすんごく素直に作ったので、今度は素直になるのは飽きたのよ、という感じになると思います。関東でやるのは5年ぶりなので、私の退化ぶり進化ぶりを観にきていただきたいと思います」(康本雅子)

康本雅子はこれまでも現在も、激しいものを軽妙に、壮絶なことをクールに表現することのできる稀有なアーティストである。当事者である作り手の「決心」は、抑制を利かせるほど、他人事じゃない切実さを突きつけてくるはずだ。

初演後のさらなるクリエイションを経て、熟成された横浜の舞台に期待と愛情をもってのぞみたい。

画像提供:康本雅子「子ら子ら」
撮影:松本成弘

■公演情報

TPAMフリンジ参加作品 康本雅子『子ら子ら』
2018年2月8日(木)~11日(日)
@YCC ヨコハマ創造都市センター 3F
振付・演出:康本雅子、出演:小倉笑、康本雅子

子がやって来た。吸われまくって目ん中入れてかき混ぜた後ぶっ叩いたハハハ泣いてみた。
子がいてもカンケーないカンケーないと言い聞かせる程に変わっていく我が身。あんなに蜜月だったのにいともさっさと離れていく我が子。得たもの失ったものはどっちも取り返しがつかない位深くて全然プラマイ0にならない。朝から続く果てなきルーティンに萎えるの怖くてママチャリ暴走してみても、所詮ママチャリそうだよママチャリ、何処にも追いつけんわー置いてけぼりで振り返ればこの子。そうか、永遠に続く気持ちなんてはなっからないんだと、愛し続けなきゃならんプレッシャーから解き鼻たれ小僧は「今日も大好き!」とうそぶく母ちゃん、布団で子の匂いを嗅ぎまくるん。これで全てが帳消しになるんだよ。ならないんだよ。
母親に。なれたと思ったのは束の間で。子が育つほど子供じみていく自分。がどんどんどんどん下校していく昼下がり~昼下がり~♪

【日時】
2018年2月
8日(木) 19:10開場/19:30開演
9日(金) 19:10開場/19:30開演
10日(土) 16:40開場/17:00開演
11日(日) 11:10開場/11:30開演
11日(日) 15:40開場/16:00開演
【会場】
YCC ヨコハマ創造都市センター 3F
〒231-8315 横浜市中区本町6-50-1
http://yokohamacc.org/
【チケット料金】
前売3000円、学生2500円
当日一般 3500円、当日学生3000円
※未就学児童は膝上の場合、無料。
【チケット予約】
発売中
http://yasumotomasako.net/np-ticket.html
取扱い:peatix
【お問い合わせ】
info@yasumotomasako.net