小沢剛の「帰ってきた」シリーズ。絵画、音楽、映像による“イイトコドリ”偉人伝!?

小沢剛「J.L.の歌」2016年 映像9’32”/Courtesy of MISA SHIN GALLERY

目が不自由だと思われる4人の男性がいる。サングラスと白い杖(なぜか一人は傘だけれど)からそれが伝わる。彼らの服装と背景の植物からきっとここは南の国だろう。それにしてもこれは以前にどこかで見た気がする。一列に整列し、横断歩道を渡る4人を真横から(クルマの運転席から?)眺めている。

そう、ビートルズの『アビイ・ロード』のジャケットの場所と登場人物を替えているだけだ。場所と人物を替えても、ああ、あれだと思わせるあのレコジャケの強さって何なのだろう。

彼らはフィリピンの視覚障害者協同組合に所属する盲目の歌手だそうだ(同時に指圧師でもある)。そしてこれは日本人アーティスト小沢剛の作品《帰って来たJ.L.》を構成する映像からの1コマだ。彼らのグループ名は「ヴィジョンズ(Visions)」。「視覚」にまつわる名前であること、「未来構想」のヴィジョンも掛けているのだろう。

小沢剛はこの作品をさいたまトリエンナーレ2016のために、フィリピンを舞台に制作した。彼はこの作品以前にも歴史上の人物を取り上げ、そのエピソードや数奇な運命をトレースし、ゆかりの地でキャスティングし、画家を探し、音楽を作り、総合的なインスタレーションに仕上げる独自の手法で作品をリリースした。

小沢剛「J.L.の歌」2016年 映像9’32”/Courtesy of MISA SHIN GALLERY

もう、おわかりだと思うが「J.L.」とはジョン・レノン、4人組はザ・ビートルズだ。左利きのベースが決定的である。制作地がなぜフィリピンなのか、主人公がなぜジョン・レノンをモデルとした男なのか。その理由は重層的に重なっている。

1966年、ザ・ビートルズが東京で公演し、チケットを入手できなかったファンがコンサート会場である武道館を取り巻き、熱狂的なファンが滞在先のホテルに大勢詰めかけた様子はモノクロのニュース映像で残っているが、東京の次の公演先はフィリピンのマニラだった。そこでも彼らは若者たちを熱狂の渦に巻き込んだ。当時、フィリピンはマルコス政権下(独裁体制前)にあったのだが、なぞの誤解から大統領夫妻のパーティへの誘いを断ったことで逆鱗に触れ、出国時には怒りに満ちた民衆と荒々しい警察によって空港から追い立てられるように帰されたのだった。以後、彼らが二度とフィリピンを訪れることはなかった。

さらに、さいたま市とジョン・レノンとは何のゆかりもないそうだが、かつて2000年から2010年まで、市内には「ジョン・レノン・ミュージアム」があったのである。

小沢剛「帰って来たJ.L.」2016年 さいたまトリエンナーレ2016展示風景/撮影:Arecibo 忽那光一郎

展示会場は旧岩槻市の民族文化センターのホール。ここは、岩槻市がさいたま市に合併され、岩槻区になったために使われなくなっていた。スクリーンの両サイドにはフィリピンの映画看板描きに発注した8枚の絵が掲げられている。それぞれ、モンタージュ的、サイケデリック的な絵に仕上がっている。

絵を見ていた会場が暗くなり、映像が始まる。中央のスクリーンにかかるのは「ヴィジョンズ」のPVだ。ザ・ビートルズの曲いくつかのメロディラインの構造を意識した曲にフィリピン語(タガログ語を標準化した言語)の歌詞を付けている。映像にはフィリピンがかつては日本に次ぐアジアの経済大国であったこと、アメリカ統治の時代があったために大学など豊かな教育設備を持っていること、建設したけれど、政権交代の結果、稼働せずそのまま老朽化していく原子力発電所が既視感ではなく既聴感(?)のあるメロディに乗せられ、流れていく。

観客はいつしか、フィリピンにはもう一つのザ・ビートルズがいたのかもしれないと思いを高めていく。あるいは錯覚していく。

誰でも新しいものを観ることは楽しみだし、知らなかったことや理解の範囲を超えるものに出会うことは興奮させてくれる。それがアートの楽しみではあるし、もっと大げさに言えば、そういう未知のものを追い求めて人類は発展してきたのだ。芸術に限らず、当然、科学だってそうである。

知ってることだけど、少し違うぞとか、ちょっと深まってるぞとか、あるいはこれは違ってて自分の知ってるもののほうが実は正しいのではないか、でもしばらく見守ってみよう、そう思わせるものは受け手に届きやすい。小沢剛の作品はそのあたりをも絶妙に突いてくる。すでにもっている知識や嗜好にまずは乗っかって、その上で、これいいでしょと展開する“イイトコドリ”と言っていい。

この「帰って来た」シリーズ。ジョン・レノンの他に題材になっている人物に、野口英世、藤田嗣治、岡倉天心がある。

アフリカをテーマに作品を作ることを決めていた小沢は「アフリカに最もゆかりのある日本人は誰だろう」と考え、その答えを自分の財布の中に見出した。そうだ、千円札に描かれたドクター・ノグチ、野口英世だ。さらに、小沢の頭のなかには原発事故以来、常に福島に向き合いたいという思いがあった。野口英世は福島県出身だ。彼は医師としてアフリカで見えないウイルスと闘い、今われわれは見えない放射能の問題を抱えている。そんなことも考えたという。

アフリカの看板描き職人を探し描いてもらい、ミュージシャンをあたり、音楽をつくってもらう。現地でPVを作る。それを総合的なインスタレーションにして展示する。

藤田嗣治の物語も奮っている。第二次世界大戦中にインドネシアで従軍した架空の日本人画家「ペインターF」を設定し、その戦前から戦後の人生を物語にして、絵画と映像作品に仕立て上げている。

戦争に翻弄される一人の画家。それは戦前からフランスに渡り、戦後、日本に失望し、離日した藤田と重ね合わさずにいられない。もちろん、藤田が遺した壮絶な戦争画が頭をよぎる。

最近では、ヨコハマトリエンナーレ2017で岡倉天心をモデルにした《帰って来たK.T.O.》を発表している。「K.T.O.」とは「覚三・天心・岡倉」である。

小沢剛「帰って来たK.T.O. Chapter 1」2017年 油彩、カンヴァス 150 x 250cm/Courtesy of MISA SHIN GALLERY

次はどんな偉人を繰り出してくるのか、そして、画家やミュージシャンたちの絶妙の起用や独自のウィットは小沢ならではものだ。美術ファンたちはすでに心待ちにしている。

「小沢剛|不完全−パラレルな美術史」
千葉市美術館
2018年1月6日(土)~2月25日(日) ※休館2月5日(月)
日~木曜日10:00~18:00、金・土曜日10:00~20:00  ※入場受付は閉館の30分前まで
観覧料:一般1,200円(960円)、大学生700円(560円)、小・中学生、高校生無料
http://www.imperfection.info/

展覧会タイトルにある「不完全」とは、明治時代に活躍した美術史家であり東京美術学校(現・東京藝術大学)の初代校長、岡倉天心(覚三)の著書『茶の本』に頻出する言葉。「不完全」とは完全に対するネガティブな言葉ではなく、完全を目指す途上に立つ、限りなく豊かでやさしい意味をもつ。

今回紹介した《帰って来たペインターF》はこの展覧会で展示される。

すでにある知識や嗜好に視点を加え、よりパワーアップした新しいものへと進化させていく。そんな“イイトコドリ”、クルマで言うと……

280馬力。7速DSG。四駆。先進テクノロジー。広さ。ユニークなデザイン。
そんな“イイトコドリ”なクルマ、それがArteon(アルテオン)。
そろそろクルマ選びも、こだわりや見栄に固執した、一点豪華主義みたいなのはやめません?
これからはこういうほうがカッコいい!!
フォルクスワーゲンのいいところ、ぜんぶ。
The New Arteon