“イイトコドリ”ライフウェア『ユニクロ×イネス』成功の秘訣

画像提供:UNIQLO

ファッション業界はこの10年ほどコラボに明け暮れている。ちょっと異常ではないかと思えるぐらいである。しかし、これは見事と膝を打つようなコラボは滅多にない。

その数少ない例が、『ユニクロ×イネス』のウェアである。2014年春夏に始まって、好評につき、今年の秋冬もコラボが続いているのだから実に4年8シーズン。驚きである。

今秋からはメンズウェアの販売も始まった。そもそも、コラボとはマンネリ化したブランドのカンフル剤になるように考え出されたわけだから、こんな長期のコラボは極めて異例なことである。しかもほぼ全店展開。「ユニクロ」の単発コラボというよりも、すでに「ユニクロ」のウィメンズウェアといえば、「イネス」のことを指すようになっている。売り上げは公表されていないが、国内で売られている「ユニクロ」の3%(240億円)程度を売り上げているのではないか(筆者推定)。なんで、このコラボだけがこんな大成功を収めたのだろうか。

これは、何と言ってもイネス・ド・ラ・フレサンジュによるところが大きい。90年代初めのスーパーモデル・ブームと言っても、知っている人は少なくなった。しかし下手な女優なんかよりも、スーパーモデルのスキャンダルが話題になった時代があった。イネスは、そのブーム先駆けになった「元祖スーパーモデル」だ。「シャネル」ブランドの専属モデルになって火がついたのだが、その一方で1989年、フランス共和国を代表する「マリアンヌ」のモデルに選ばれた。

「マリアンヌ」はフランスのいたるところにその胸像がおかれることで有名で、イネス以前には女優のブリジット・バルドーやカトリーヌ・ドヌーヴ、歌手のミレイユ・マチューなどが選ばれている。

「シャネル」のチーフデザイナーだったカール様ことカール・ラガーフェルドがこの「マリアンヌ」モデルを辞退するようにイネスに要請したにもかかわらず、イネスはこれを拒否。結局裁判で争い、シャネル社は、イネスとの専属契約を破棄。何億円もの年間契約料をフイにしてでも名誉をとったイネスに、業界関係者が唖然とした「事件」である。この気位の高さは、名前からもわかるように名門貴族出身ならではのもので、他のスーパーモデルとは一味違うところである。

イネスはその後、自分のブランド「イネス・ド・ラ・フレサンジュ」をスタートする。日本では伊勢丹が取り扱い、骨董通りに店があった。しかし、無断で「イネス・ド・ラ・フレサンジュ」のブランドでピルケースを売り出したことなどで、出資者と軋轢が生じ、クリエイティブ・ディレクターを降りた。現在は持ち前のファッション・センス&ビジネス・センスの良さでファッション関係のアドバイザーなどの仕事をしている。

イネスは今年60歳になった。もちろん現役モデルだったころの近寄りがたいような輝きは望むべくもないが、なんとも上品な美しさが醸し出されて、これがむしろ日本の女性たちには、ウケているようだ。

イネスは「大人のパリ イネスのおしゃれガイド」(邦題、集英社刊)を出版しているが、その中でベーシックで高品質な「ユニクロ」のファンだと書いている。「シャネル」を始めとしてラグジュアリー・ブランドをそれこそ湯水のごとく着続けた彼女が、ここにきて、ベーシックで高品質な「ユニクロ」のファンになっているのだ。その「ユニクロ」が彼女に注目したのは当然といえば当然である。いわば相思相愛。ただ注意しなければならないのは、その気位の高さとワガママな点だろう。

「ユニクロ」はかつて、女性デザイナーのジル・サンダー女史(いうまでもなく「ジル・サンダー」ブランドの創業デザイナー。ブランドはすでに売却)とコラボして「プラスJ」というコラボを行った。このジル・サンダー女史も気位の高さとワガママなことでは有名なデザイナーだったが、今回のイネスとのコラボにはその時の教訓が十分生かされているようなのである。

イネスからのイイトコドリは、歳を重ねてにじみ出てくる上品な美貌、かつてのスーパーモデルならではの卓越したファッション・センス、「シャネル」や「イネス・ド・ラ・フレサンジュ」のブランド・ビジネスにかかわったことで身に着けたマーケティング・センスである。

例えば今秋のファッション・テーマは「ヒュッゲ」(世界で一番幸福な国と呼ばれるデンマークのライフスタイル全般を表現する言葉)。なるほどとうならせる。「ヒュッゲ」をテーマにした本の出版が日本でも最近は相次いでいるが、イネスはそれを先取りしている。非凡なマーケティング・センスである。

アイデアは豊富に持っているイネスだが、もちろんそれを実際の洋服に落とし込むデザインができるわけではない。そこで起用されたのが、現在「ユニクロ」のスペシャルプロジェクト・デザインディレクターを務める滝沢直己(1960~)である。三宅一生が「イッセイミヤケ」のデザイナーを引退するときに、その後継デザイナーとして指名したデザイナーである。このひとことをもってしても、その実力は折り紙付きだ。イネスとの共同作業が上手く行っているのは、一つには2人の年齢が近いことがあげられる。

Photo:KUMI MATSUSHITA

「ユニクロ」は、単なる服ではなく「ライフウェア」という言葉を最近使う。ラグジュアリー・ブランドや安価なファストファッションの後に来るウェアのことだという。次代のライフスタイルを模索し続けてきた2人だからこそ、これほど大きな成果が出ているのだろう。

そして言うまでもなく、「ユニクロ」を生み出す生産体制が、ハイクオリティかつ驚くほど安価な『ユニクロ×イネス』を可能にしている。『ユニクロ×イネス』は、イネス・ド・ラ・フレサンジュという素晴らしい素材を見つけ、そこから二重、三重に、イイトコドリをした商品といえるのではないだろうか。

いま、様々な業界で多彩なコラボレーションによる“イイトコドリ”の名作、名品が数多く生まれはじめている。

そんな“イイトコドリ”、クルマで言うと……

280馬力。7速DSG。四駆。先進テクノロジー。広さ。ユニークなデザイン。
そんな“イイトコドリ”なクルマ、それがArteon(アルテオン)。
そろそろクルマ選びも、こだわりや見栄に固執した、一点豪華主義みたいなのはやめません?
これからはこういうほうがカッコいい!!
フォルクスワーゲンのいいところ、ぜんぶ。
The New Arteon