あっとビックリなホテルを作っちゃうのも現代アートなのだ⁉︎

西野達という現代美術作家をご存じだろうか。ベルリンと東京を拠点に活動する彼は作品や展示に関する考え方そのものが、他のアーティストと大きく異なっている。たとえばこれ。シンガポール名物マーライオンを囲って部屋を作り、昼間は現代アート作品として展示し、夜はホテルにして毎晩ひと組の客が宿泊する。

ⓒ Tatzu Nishi, Courtesy of URANO/Photo by Yusuke Hattori
どこかの部屋の中にマーライオンの実物大のオブジェを運んできて設置したのではない。本物のマーライオンを取り囲んでしまった部屋だ。2011年のシンガポールビエンナーレの展示作品の一つである。昼は見学者が長い列を作り、夜は幸運にも予約できた客が滞在する。3月13日〜5月15日の2か月だけ存在した部屋。ビエンナーレってなんなの?というただの観光客はお目当てにして見に来たマーライオンが囲われてしまっていて、工事のための養生と思うかもしれない。

ⓒ Tatzu Nishi, Courtesy of URANO/Photo by Yusuke Hattori
ビエンナーレ開催中は西野がこの場所を独占してしまっているわけだから、マーライオンを見たければこの作品に入場することになる。それこそ思うツボで、そもそも西野の狙いの一つは、美術館にはアート作品を見たいという客しか来ない。そして、そんなのはほんの少数だ。でも考えてみれば、美術館でしか美術品を見せてはいけないという決まりはない(古美術品は温湿度管理などが厳しいので美術館のような空調管理が必要になる)。それだったら美術館よりも人が多くいるところで作品を展示してしまえばいい。それに向いた作品を作ればいいんじゃね?という考え。ちゃっかりしてるといえばちゃっかりしてる。

これらの作品に共通するのは人の集まる名所に便乗するイイトコドリだということだ。通行人を観客として想定しているのだから。一方、忘れ去られてしまったものや、街灯、キリスト像、十字架、市庁舎の壁時計などそこにあるのがあたりまえ過ぎて誰も気に留めなくなったものをあえて取り上げ、作品に仕立てることもある。

筆者はこの「マーライオンホテル」に一泊した。海に面した立地、特にバスルームからは新しくシンガポールの観光名所になったばかりだったマリーナベイサンズ(カジノ、屋上プール、ホテルを備えた57階建て大型リゾート施設)が眺められ、これぞシンガポールの絶景なりという感じ。ベッドに横になって天井を見上げるとマーライオンの口を下から見上げることになる。ふだんは水を勢い良く吐き出しているあの口だ。

ⓒ Tatzu Nishi, Courtesy of URANO/Photo by Tatzu Nishi
近所にある一流ホテル、ザ フラートン ホテル シンガポールがホテルとしてのオペレーションをしてくれているので安心。たった一部屋だがチェックインをするレセプションルームもあるし、チェックインのときはウェルカムカクテルもサービスされた。

西野はこのような既存のモニュメントや建築物を利用した部屋(ときにホテルなどの用途も持たせる)を2000年頃から作ってきた。その中でも大掛かりなものではニューヨークのコロンバスサークルの中心にあるコロンブス像を中心に据えたリヴィングルーム、作品名「ディカヴァリング・コロンブス」というのがある。2012年9月下旬から約2か月半にわたって展示した。

ⓒ Tatzu Nishi, Courtesy of URANO/Photo by Go Sugimoto
そう、あのセントラルパークの、地図で言うと左下(南西)の角にあるあのコロンブス像だ。ということは地上からはかなり高い位置に突如出現したリヴィングルームだ(ホテルではないので宿泊はできない)。窓からはセントラルパークやマンハッタンの町並みが見える。部屋の中心にはソファセットがあって、大型テレビからは常にCNNが流れていた。

ⓒ Tatzu Nishi, Courtesy of URANO/Photo by Go Sugimoto
外から見ると高さがわかる。この白い箱の中味がコロンブス像を囲ったリヴィングルームだった。観客は階段で上がるのだが、いちおうエレベーターもあって、工事のときと、車椅子の人が見学するときに使えるようになっていた。

普段のコロンブス像はこんな感じである。

さて、もうひとつ、最新作を紹介する。これは日本国内。
大分県、別名おんせん県別府駅前に油屋熊八という人の銅像がある。この熊八さんは別府を今日のような国際的な観光都市にした推進役なのである。この銅像を囲った部屋が「in BEPPU」という芸術フェスの作品の一つとして今年の12月24日まで公開されている。

写真提供:混浴温泉世界実行委員会 撮影:脇屋 伸光
オブジェがある不思議な部屋に見えるかもしれないが、これは駅前に出現した期間限定の部屋である。旅館業法に則って登録しているわけではないので、その名前に反してホテルとして営業することはできないのだが、金曜と土曜の夜に夜間特別鑑賞体験として、一晩独占して見学することができた(受付は既に終了)。

もともと駅前の銅像、そしてその横には手を温める手湯があり、通常は観光客が訪れるのだが、この作品にはそれを利用した露天風呂が作られている。つまり、露天風呂付き駅前温泉旅館の体をした現代美術作品である。

ふだんは手湯として使われている場所を露天風呂に仕立て上げている。/写真提供:混浴温泉世界実行委員会 撮影:脇屋 伸光
筆者はここの夜間特別鑑賞体験も味わった。露天風呂の真上はJR別府駅のホームで列車が来ると上から覗かれそうな場所ではある。それくらい駅前だ。「ホテル」の設備、家具などの一部は少し前まで実際に営業していたホテルのものを借り受けて使っているので、ホテルのインテリアとしてはかなりリアルな感じが出ているし、それぞれのものには歴史と記憶が刻み込まれているといえる。

Photo by Yoshio Suzuki
ちなみにふだんの別府駅前はこんな感じだ。油屋熊八像と手湯。

写真提供:混浴温泉世界実行委員会
通常の思考やありきたりの日常ではありえないもの、実現が不可能と思えるものを目の前で見せてしまうのも現代アートの仕事なのだ。西野はそう言わんばかりに次々に見せ、驚かせてくれる。我々の思い込みや常識だと思っていること、単純思考を軽々と裏切ってしまうような。アイディア一つで人をあっと言わせるオイシイトコドリの仕事師、それがアーティスト西野達である。

昨今では様々な業界で、これまでの固定概念を覆すような“イイトコドリ”の名士や名作が出現しだしている。

そんな“イイトコドリ”、クルマで言うと……

280馬力。7速DSG。四駆。先進テクノロジー。広さ。ユニークなデザイン。
そんな“イイトコドリ”なクルマ、それがArteon(アルテオン)。
そろそろクルマ選びも、こだわりや見栄に固執した、一点豪華主義みたいなのはやめません?
これからはこういうほうがカッコいい!!
フォルクスワーゲンのいいところ、ぜんぶ。
The New Arteon