大人の遊び/仕事スーツは、ビスポークでハイクオリティに

スーツにはフォーマル、ビジネス、タウン、カントリーの4種類がある。これまであなたが袖を通してきたスーツは主にビジネス用で、たまにフォーマルスーツを利用していたのではなかろうか。

いっぽう筆者のような年齢になると、オフィシャルな場から少しずつ離れ始め、次第にプライベートで自由な時間が増えてくる。つまりビジネススーツに代わって、私的な時間を楽しむ、タウンスーツやカントリースーツを活用する機会が多くなってくる。新しく登場した遊び/仕事スーツは、そうした場にも転用できるのでは、と考えた次第だ。

いっぽう年齢を問わず、多くの男性にとってスーツはもっとも長く袖を通してきた服ではないだろうか。スーツは貫禄がついた大人のカラダで着てこそ、味の出せる服である。そして何より、長年馴染んできた服というのは、着る人に安心感をもたらし、その余裕が、着こなしにプラスとなって現れるものだ。

つまり現役世代の方にも、下手なカジュアルを着るよりは、遊び/仕事スーツで週末を過ごしたほうが格好イイのに、と思うケースがいくつも思い浮かぶのである。

たとえば、大切な人と都会の夜をクルーズしたり、古民家を改築したという友人の田舎にひとり旅して、囲炉裏を囲むときなどにも重宝だろう。

遊び/仕事スーツは、芯地や肩パッドを省いたアンコンストラクチャー(非構築的、略してアンコンと呼ぶ)仕立てなので、なにより軽く着心地が良いという特長を持つ。耐久性や押し出しの強さが必要だったビジネススーツと異なり、肩を威嚇的に大きく見せたり、必要以上に堅く丈夫にすることがない。そんなリラックスした着心地は、長時間飛行機に乗りそのまま仕事先へ、といった出張にも快適だと思われる。

では、この秋冬に登場した遊び/仕事スーツは、どんなものがあるのだろうか。

優れた面は、この上下服がセットアップスーツとして販売され、ひと型の上着と同一の生地で、普通のテーパード・トラウザース、ドローストリング・パンツ、フレンチ風セーラーパンツという具合に、ボトムを自在に選択できるものもあるという点だ。

またジャケットのシルエットは、長らく続いた極端なタイトフィット&ショートレングスという傾向から脱却し、ややゆったりしたボディラインと適正な上着丈へ戻った点も評価したい。

そんな中で、筆者がもっとも推したいのは、おそらく世界唯一といっても過言でないアンコンスーツのビスポークオーダーである。

アンコンスーツの最大の欠点は、芯地やパッドが入っていないので、カラダの欠点が露呈してしまうことである。いい換えると、着る人の体型にバランス良くフィットしたスーツでないと、無用のシワが目立ち、貧相に見えてしまう恐れが出るわけだ。

東京世田谷の赤堤にアトリエを構える関根久光さんが作るアンコンのビスポークスーツは、月並みな表現で申し訳ないが、あたかも空気を羽織っているようなカジュアル感あふれる着心地と、身体にジャストフィットしたクリーンなラインで群を抜いている。

また胸の芯地を使用していないのに、美しいドレープが形成されるのは、身返しをひねって表地を支えるという工夫をしているからだ。関根さんは、この独特のアンコン構造で特許まで取得している。

関根さんを街場にいる普通のテーラーと勘違いされては困る。彼は、世界一のクオリティを誇る既製スーツのひとつと筆者が考えている、トゥモローランドのMIJモデル(モード逍遥#1で紹介)のモデリストでもあるのだ。

関根さんが手がけた遊び/仕事スーツの定番は、上等なミルドウーステッドで仕立てられたダークブルーのシングル胸スーツ。完璧なアンコン仕立てだから、芯地や肩パッドの入ったスーツよりビジネス臭が抜けているうえに、衿付けやゴージラインなどが丁寧なハンドメイドなので、もっとも目につく胸まわりの周辺に品の良い雰囲気が醸し出されている。

定番の遊び/仕事アンコン・ビスポークスーツ/Photo:Shuhei Toyama

いっぽう建築家やアーチストに日常着として推したいのは、みじんのソフトツイードで仕立てられたセットアップスーツ。衿を立てたり、折り返したりすることでオン・オフの切り替えができる点が素敵だ。

ビスポークだから自由業の方にも自在なデザインで対応/Photo:Shuhei Toyama

イタリアの著名なモデリストを多く輩出している『セコリ校』を日本人として初めて卒業した関根さんは「遊びにも仕事にも有効なスーツが登場したのは、今に始まったことではありません。1990年代にはプラダやジル・サンダーらが、軽い芯地やストレッチといった新技術を導入したデザインにトライしています。彼らは、最小限の自由で快適な服で、あらゆる生活シーンに適合するミニマルワードローブの構築を目指したのでしょう。いっぽう私がこれからトライしてみたいな、と思うデザインは、1940年代の農夫たちが着ていたようなちょっと野暮なワークスーツです」と、おっしゃっていた。

つまり、世間で流行中のルーズフィットな服は、1980年代の影響と一般的には考えられているが、そのルーツは1940年代にあると、関根さんは考えているのだろう。関根さんの明晰な頭脳から、いったいどんな次の流行スーツが登場するのか、筆者はすごく楽しみにしている。

Photo:Shuhei Toyama