「KRUG」は確かに何か一言言わずにはいられない別格の存在なのだ(後編)

クリュッグは、“ブドウ畑の個々の区画をひとつの食材として扱うことでしか最高品質は保証できない”とする信念から、ひとつの食材を賞賛する試みとして、2015年より毎年、ひとつの食材をテーマに、世界中の「クリュッグ・アンバサダー」とともにフードペアリングを各国で展開してきた。

今年選ばれたのは、キノコ。今夜の日本でのグランピングにはぴったりの食材だ。その日本でのアンバサダー・シェフに選ばれたのは、気鋭の日本人シェフの山田チカラ。南麻布で「山田チカラ」という創作料理の店を営む46歳のオーナーシェフだ。

山田氏のキャリアで注目されるのは、なんといっても「世界一予約の取れない店」と言われたスペイン・カタルーニャのレストラン「El Bulli(エル・ブリ)」(2011年閉店)で、そのオーナーシェフのフェラン・アドリアの下で1年半スタッフとして働いたことだろう。料理界の革命児アドリアの分子美食学を取り入れつつ、ジャンルにとらわれない斬新な創作料理を提供して注目を集めるシェフである。私が料理を食べるのは初めてで、期待が高まる。

最初の皿は、手長海老と椎茸コンフィのソテー。手長海老をコンフィして薄く椎茸で巻き、さらにキャビアが振りかけてある。これが黒い皿の上に2つ。さらにキノコ、ブロッコリー、レタスなどのサラダが添えられていて、森の中の生きもののように見えて、面白い。

また、手長海老、椎茸、キャビアの味のコンビネーションが素晴らしい。これには、クリュッグ2004がペアリングされた。

クリュッグ2004は、メゾンによって「輝く爽やかさ」と名付けられ、「繊細さ、バランス、あらゆる種類の豊かな柑橘系の香りを兼ね備えて、シャンパーニュ地方の初夏の早朝の気分を彷彿とさせる」と表現されているが、まさにその通り。とりわけ魚介類に対して最高の相性を見せているようだ。このペアリングはまさにピッタリだ。

このあたりから、エリック・レニーニ・トリオが優雅にジャズ・ナンバーを演奏する。エリック・レニーニのちょっと哀愁を帯びたピアノがなかなかいい。もちろんピアノはスタインウェイだ。

料理のほうは、主菜になる2皿が供される。最初の皿はちょっとびっくり。目を疑った。なんとバンズのトップがちょっと焦げ目のあるマッシュルームなのだ。中身はハンバーグとチーズとレタスとケチャップ、つけ合わせにフレンチフライというゴールデンスタイル。しかし、バンズのトップを替えただけで、全く違うものになるのだから天才の発想は凄い。ちょっと焦げ目のついたマッシュルームがハンバーガーをガストロノミーに変身させている。

これにペアリングされたのはクリュッグ ロゼ。ここで六代目当主のオリヴィエ・クリュッグ氏が登場して一言。「マドンナは、クリュッグ・ラバーの一人ですが、フレンチフライにクリュッグ ロゼを合わせるのが最高と言っていました。今夜のペアリングもそれに習ってクリュッグ ロゼを選びました」。

周知のように、クリュッグ ロゼは、ピノ・ノワールの赤ワインを加えて作られる。クリュッグは、その本質を“歓び”にあるとしながら、どこか享楽的でも愉悦的でもない一種の「生真面目さ」があると前述したが、もし少しでも享楽的で愉悦的な方向にふれるとしたら、唯一それがクリュッグ ロゼであろう。香りも色も味も一段と華やかなのだ。フレンチフライにクリュッグ ロゼを選んだマドンナはやはり天才の直感を持っているなと、山田チカラ氏によるマッシュルーム・ハンバーガーを食べながら思った。

主菜は、もう一皿あった。白トリュフカルボナーラ エル・ブリ風。カルボナーラに白トリュフを惜しげもなく振りかけた一皿だが、あまりに美味しくて、どこがエル・ブリ風なのかは聞きそびれた。とにかく、最高級白トリュフの香りが思考を停止させるほど濃厚だった。ペアリングはやはりクリュッグ ロゼ。料理の濃厚さにぴったりと寄り添っている。

デザートは、クレームダンジュと黒トリュフ風味の冷たいチョコレート。森の絨毯を表現しているのだろうか。想像力ふくらむデザートだ。ペアリングはクリュッグ グランド・キュヴェ。やはり締めくくりはこれだろう。かなり杯を重ねたが、実に心地よく、まだ2次方程式なら解けそうである。幸せな気分である。今日は誕生日だったかな?と錯覚するぐらい。ここまでクリュッグを味わいつくした夜は初めてだが、とにかく素晴らしい酔いなのである。

 

【連載記事一覧】

「KRUG」は確かに何か一言言わずにはいられない別格の存在なのだ(前編)

「KRUG」は確かに何か一言言わずにはいられない別格の存在なのだ(中編)

他にはない味わいを夢見た初代の考えを貫き、1843年の創業以来6世代にわたり伝統の製法を忠実に守り続けるクリュッグ家。芸術にも喩えられるアッサンブラージュと6年以上の長く静かな熟成を経て、独特の深く複雑な味わいが生まれます。

お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。お酒は楽しく適量で。