フランス人間国宝展。伝統工芸ひとすじに昇華された作り手たちのパッション

会場は東京国立博物館の表慶館。上野公園の博物館のなかで唯一、明治時代に建てられたこの瀟洒な西洋建築は、皇太子(後の大正天皇)のご成婚を記念して計画され、明治42年(1909年)に開館した。

Photo:Chie Sumiyoshi

設計は、ジョサイア・コンドルの弟子で、東宮御所(現在の迎賓館)なども手がけた宮廷建築家・片山東熊である。緑青色のドーム屋根に覆われた優美なアルコーヴや、外壁に施された製図用具や工具、楽器をモチーフとするレリーフが奇しくも本展に相応しい空間をつくりあげていた。

本展は、発起人であるHEART & craftsによる「WONDER LAB」プロジェクトの第1弾となる。伝統の技とそれらを究めた匠たちの活動を通して、フランス伝統工芸の驚きに満ちた世界を現代的アプローチで紹介しようとする試みの一環だ。

キュレーターを務めるのは、カルティエ現代美術財団学芸員や在日フランス大使館文化担当官を経て、現在アルゼンチンのフランス大使館に在籍するエレーヌ・ケルマシュテール。東京でも、「21_21」でデザイン展を手がけたことのある彼女の手腕によって、本展は従来の旧態依然とした工芸展から大きく飛躍し、アーティスティックなビジュアルプレゼンテーションを実現している。

印象的だった展示を挙げてみたい。

「まぼろしの技法」といわれる曜変天目の研究と作陶に人生を捧げる決意をしたという陶芸家ジレルの展示室では、暗い虹色の妖気を放つ陶器が蠢くスカラベの群れのように出迎える。

農業、人道支援活動家、写真家から、ステンドグラス修復の第一人者、そしてジャン・ヌーヴェルら世界的建築家と仕事をするガラス作家(←イマココ)というよくばりな経歴をもつバロワは、インダストリアルの強靭さをあわせもった、揺れ動くガラスを表現する「探求」を発表する。

Photo:Chie Sumiyoshi

驚いたのは、17世紀からアール・デコ時代まで装飾芸術に用いられ、その後廃れていた麦わら象嵌細工の技法を再興させたドゥ・コーヌの家具だ。素朴な素材に忍耐強く手を加えることで、見違えるように洗練された官能的な触感をもつ工芸作品が生まれるのだ。祖父はアール・デコ様式の有名な装飾デザイナー、アンドレ・グルーだそうである。

Photo:Chie Sumiyoshi

いかにもマリー・アントワネットが好みそうな華やかな羽根細工が、それを天職と悟ったソニエによる多民族文化的な造形をともなって、極楽鳥の求愛のように、あるいは威嚇する部族の踊りのように、その羽ばたきをフリーズさせていた光景にも息をのんだ。

また、同じくロココ時代の宮廷文化を象徴する扇は、38歳の史上最年少でメートル・ダールを認定されたル・グエンの手によって文字どおり蘇った。8歳で扇に魅了され、18世紀にディドロらが編纂した「百科全書」を参照し、古い扇の修復を行うことで扇の技術を身に付けた。また世界初の、広げると複雑な立体装飾が現れるポップアップの扇は、日本の折り紙に着想を得て制作されたという。顧客にはオマーン国王などが名を列ね、映画「マリー・アントワネット」(ソフィア・コッポラ監督)、「シンデレラ」(ケネス・ブラナー監督)にも作品を提供しているとか。

銅板彫刻、紋章彫刻、エンボス加工の展示室では、きわめてプライベートな需要の中でひそやかに培われた技術が、時代や文化を軽やかに跳び超えることにはっとさせられ、瑞々しさを感じた。“薔薇の下で”囁かれた宇宙の秘蹟がひらかれるのを待つかのようなその神秘性は、まさに「ダ・ヴィンチ・コード」の世界である。

作家たちのプロフィールを読むと、さすがに由緒正しい装飾美術家やマエストロの血筋を受け継ぐ人も多いようだ。
またその一方で、若い頃から、ヒップなカルチャーに目もくれず、伝統工芸一直線で探求し続けてきたであろう彼らの人生とそのパッションに思いをはせる。

ほんの一握りの王侯貴族たちの快楽のために育まれた端正な技巧は、志ある職人たちの手で守られ、やがて一般市民も手にすることができる時代がくる。そこにはどれくらいの実験と逡巡の繰り返しがあったのだろう。

会場では、作家たちの工房で撮影された制作のドキュメンタリー映像も上映されているので、これもぜひのぞいてほしい。真剣な面持ちの中で、思わず自然な笑みが浮かんでしまう、彼らの「つくる喜び」を感じとれるはずだ。

Photo:Chie Sumiyoshi

フランス人間国宝展
会場:東京国立博物館 表慶館
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
http://www.tnm.jp/
会期:2017年9月12日(火)~11月26日(日)
公式サイト:http://www.fr-treasures.jp/