『キング・コング』の哀しい最後に流れるペギー・リーの『バイ・バイ・ブラックバード』

ストーリーは1933年版『キング・コング』とまったく同じで、舞台設定は「1933年大恐慌時代のニューヨーク」になっている。

「美女と野獣」のテーマのごとく、過去に1933年フェイ・レイ、1976年ジェシカ・ラング、そしてこの2005年ナオミ・ワッツを主演女優に作られ、コングとのラブロマンスの要素もふんだんに盛り込まれる。とくにセントラルパークの氷の張った池の上で戯れるシーンが、僕は好きだ。ピーター・ジャクソンは、初代フェイ・レイ(1907-2004) をラストシーンに出演させる予定で、本人からも快諾をもらっていたのだが、クランクイン前の2004年8月8日に急逝したため出演は叶わなかった。ラストシーンの「コングを殺したのは飛行機じゃない。美女が殺した」(カール・デナムのセリフ) という決めゼリフを任される予定だった。

売れない女優のアン・ダロウ(ナオミ・ワッツ)は芝居小屋が突然閉鎖になり路頭に迷う。そんな彼女を救ったのは、出資者から見離された映画監督カール・デナム(ジャック・ブラック)。彼は幻の島へ行って冒険映画を撮ることに賭けていた。最初は彼の誘いに抵抗を感じたアンだが、脚本が憧れのジャック・ドリスコル(エイドリアン・ブロディ)のものだと知り、承諾。こうしてデナムは、助手のプレストン(コリン・ハンクス)に命じ、主演男優のブルース・バクスター(カイル・チャンドラー)らスタッフと機材を3時間足らずで船に乗せ、急いで大西洋へと出航していった。

唯一、本当の目的地をデナムから聞いていたエングルホーン船長(トーマス・クレッチマン)は、危険を承知で南インド洋の海域に近づいていく。そしてデナムが探し求めていた髑髏島にたどり着いた。上陸したクルーは、原住民たちの攻撃に遭って数名が命を落とす。まもなく原住民たちにアン・ダロウがさらわれ、巨大な野獣キング・コング(アンディ・サーキス)がアンを奪い去る。

『キング・コング』 4K ULTRA HD + Blu-rayセット5,990円+税(2017年09月06日発売)/Blu-ray1,886円+税、DVD1,429円+税(発売中)/発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント©2005 Universal Studios and MFPV Film GmbH. All Rights Reserved.

アンを追ってジャングルの奥地に進むクルーだが、恐竜や未知の生物に襲われ、次々と命を落としていく。一方、アンはコングと心を通わせるようになっていた。やがてジャック・ドリスコルが、アンを連れ戻すことに成功。怒ったコングを、デナムはクロロフォルムで生け捕りにしてしまう。

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数か月後、コングはブロードウェイで人間たちの見世物にされていた。その最中に怒り出したコングは、拘束具を破壊して真冬のニューヨークで暴れ出す。街がパニックに陥るなか、コングはアンをやさしく捕まえて、エンパイアステートビルの頂上に登っていく。だがコングは米軍の機銃掃射を全身に浴びて力尽きて落下してしまう。

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哀しいラストである。なぜ、次の行き場がないエンパイアステートビルに登って、自ら死を選ぶのか。哀しい。

ブロードウェイで拘束具に繋がれ、人間たちの見世物にされていたキング・コングと、見世物興行への出演を拒んでブロードウェイで離ればなれでいるアン・ダロウ。これからのエンパイアステートビルへと至る哀しいシークエンスを予見するかのように、すばらしいジャズスタンダードが流れる。実はこの曲、アン・ダロウがキング・コングと出会う髑髏島への船旅でも流れるのだ。

ペギー・リー(1920-2002) が歌う『バイ・バイ・ブラックバード』(原題Bye Bye Blackbird)がとても印象的に流れる。作詞家モート・ディクソン、作曲家レイ・ヘンダーソンにより1926年に作られた曲だ。最初にレコーディングしたのは歌手ジーン・オースティン。でも、コメディアンで映画俳優のエディ・カンターが歌ってポピュラーになり、1954年のエディ・カンターの伝記映画にも使われた。

この曲が一躍有名になったのは、ジャズトランペット奏者マイルス・デイヴィスが、1956年コロンビアレコードに移籍して発表したアルバム『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(原題’Round About Midnight) に収められていたインストゥルメンタル曲。マイルス・デイヴィスのミュートプレイと、テナーサックス奏者ジョン・コルトレーンのテナーソロがコントラストをなす、すごい名曲だ。

「Blackbird」には黒人という意味のある隠喩であり、「黒いBird」、つまりマイルスの師匠であるテナーサックス奏者、チャーリー・パーカーへ捧げたものである。また、1999年度トニー賞で3部門を受賞したミュージカル『フォッシー』でも歌われた。(※1

この歌詞の「Blackbird」は幸せの青い鳥の反対語で、「不幸せ」という意味。詞の内容は、シカゴの淫売宿を出て母親の元に帰るというラブソング。

ペギー・リーの活動は、残念ながら1933年という映画の舞台設定ではわずかに合わない。歌手デビューは1942年だったのだ。

※チャーリー・パーカーの伝記映画『バード』(クリント・イーストウッド監督)に対抗して、スパイク・リー監督が作った本格的ジャズ映画『モ’・ベター・ブルー』の主人公も、ジョン・コルトレーンを崇拝している。

画像提供:NBCユニバーサル・エンターテイメント
©2005 Universal Studios and MFPV Film GmbH. All Rights Reserved.
動画:efren limas – You Tube