アール・ヌーヴォーが生き続ける、ファンタジックな!? 地下鉄アベス駅へ

アベス駅周辺にはパン屋を始め、美味しそうな品揃えのデリカテッセンのお店、ワインとチーズが買えて、バーとしても利用できるモダンなワインバー、こぢんまりとして落ち着いたレストランなど、クォリティ・ライフが楽しめそうなお店が揃っている。またフレンチ・カジュアルのブランドのブティックや一点ものふうの服を扱っているところ、フランスデザインでアジア生産の雑貨を売るお店など、有名ブランド店やサンジェルマンのブティックとも違って、「アベス・スタイル」とでも呼べそうな独自性のある新感覚のお店が増えている。

アベス駅はモンマルトルの丘のふもとから中腹あたりに位置し、駅のホームから出口までかなり高低差があり、そのため大きなエレベーターが設置されている。これはパリのメトロでは大変珍しい。30人は優に入れる大きなエレベーターである。

階段もついていて、螺旋階段になっている。しかし階段で昇るのは結構骨の折れることなので、エレベーターを利用する人がほとんどである。

モンマルトルのランドマーク、サクレクール寺院が描かれて。/Photo:Ayako Goto

先日、サクレクール寺院の下にあるサンピエール広場の布地屋に行ったときにアベス駅を利用した。そしたら今年の4月10日から9月15日まで工事中であるとの貼り紙が出ていた。エレベーターが使えず階段になるという内容なのだが、サクレクール寺院と階段をシルエットのイラストで表現していて、それがなんともおしゃれでカッコいい。文字だけのただの告知で終わらせないところにRATP(パリ交通公団)のセンスが光っていた。

アベス駅の貼り紙。2017年4月10日から9月15日まで工事が行われる内容が記載されて。/Photo:Ayako Goto

階段を昇り始めると、何と、かつての平凡な白壁がすっかりイメージチェンジしていて、目を見張ったのである。

エッフェル塔やモンパルナスタワーが見えるパリの風景があったり、ムーラン・ルージュの建物の前で子供たちの鼓(笛)隊(笛を吹いている姿が確認できなかった)が楽しそうにしていて、この地区のバーのオーナーで有名人のミシューが一緒に描かれていたり、そうかと思うとギリシア神話のペガサスが幻想的にブルーで壁いっぱいに広がり、さらに歩を進めると明るい黄色の花で埋め尽くされていて、花園に迷い込んだような錯覚にとらわれる。

壁の絵を見ながら螺旋階段をぐるぐると昇っていくといつの間にか地上に出るのであるが、それまでの数分間の何と幸せな、気持ちを和ませてくれた時空であったことか!

壁画は7種類あり、それぞれタッチが異なるので、7人のアーティストによるものであろう。モンマルトルを愛する人たちのモンマルトルを表現したアベス駅の壁画。クスッと思わず笑ってしまう微笑ましい落書きもあって、それはエッフェル塔によじ登っている絵をつけ足したもので、まるで絵本の中の主人公のようだ。ここまで上手くやられると、落書きした方の勝利である。

絵本の1ページのようにも受け取れる落書き。/Photo:Ayako Goto

階段を昇って外に出ると、開業(アベス駅は1912年)当時のギマールのデザインによるガラスの天蓋のついた装飾がそのままのかたちで残っていて、アベス広場に風格を与えている。100年以上を経た現在もアール・ヌーヴォーが身近にあり、街に溶け込んでいる。本物は生き続ける、という証明でもあろう。

Photo:Ayako Goto