訪日外国人の日本酒まとめ買い、近頃は“みんなが知っているお酒”から自分だけの“パーソナルなお酒”に⁈

さて繰り返しになりますが、海外市場でお酒が人気になると、日本で日本酒をまとめ買いする方が増えます。なぜなら当たり前ですがリーズナブルなため。世の中、内外価格差が縮まる傾向にあるように思いますが、こと手造り食品に関しては別世界。海外でのお酒の小売価格は日本での小売価格のおよそ3倍ほど(国によって多少違いますが)。

さらに、清酒の輸出量は国内総生産のわずか3.5%ほどですから、おのずと海外流通量は限定的でありますし、有名銘柄ともなれば入手困難になるのは必至です。そのため、日本への出張や観光ツアーの機会に、いろいろとお酒を買って帰ろうというわけです。

彼らが欲しいお酒は雑誌によく取り上げられているもの、コンペティションのメダル受賞酒、有名人が絶賛したもの、はたまた一番高いもの等々、「美味しさ」を華やかに形容する話題があるものばかり。SNS時代、それらの情報はあっという間に世界に広がり、入手困難な「みんなが知っているお酒」が誕生します。これらの銘柄は年ごとのトレンドにより少々顔ぶれは変わりますが、「みんなが知っているお酒」は美味しさの保証が高くお土産にも喜ばれるため、訪日時にまとめ買いしたくなるのも当然です。この傾向は地理的距離および情報距離も近いせいか、特にアジア圏からのお客様に多いように思います。

しかしながら、前述の訪日客が探していたのは「みんなが知っているあのお酒」とは違うもの、というまさに「逆張り」。正確には、彼も今までそういうお酒ばかりを買っていたけれど、これからは変えていくのだと。そう呟きながらスマホから見せてくれたのは、海外での日本酒イベントで撮ったという某蔵元と彼が笑顔で一緒に写っている一枚。言葉を交わしたその蔵元のお酒をせっかくだから買って帰りたいというのです。幸い写真には酒のボトルも写っていたので銘柄はすぐわかり、彼は所望する銘柄に加えて、いくつか未知なるお酒を抱えて満足気に店を後にしました。

「みんなが知っている」を基準にしたお酒選びから、「パーソナルな発見」を基準にしたお酒選びへ。多くの蔵元が海外(特にアジア圏)で頻繁にプロモーションを行うようになったことを背景に、今、海外では日本酒をより身近に感じてもらえる機会が増えています。前述の訪日客のように、パーソナルな発見で見いだされるお酒が増えていくことによって、メーカーの海外展開も加速され、結果マーケットがさらに活性化されていくに違いありません。

訪日外国人の日本酒のまとめ買いに見えた小さな変化に、これからの大きな変化の萌芽を感じます。

Photo:shutterstock / KPG Payless2