市場で最もお得なグッドイヤーウエルテッド・シューズ⁈

牛の皮を塩漬けにする。厳しい作業である。/Photo:Shuhei Toyama

「今はこれだけですけど、以前は鞣しもやっていました。渋染めといって、木の皮を砕いて粉にしたものを水に溶かし、3種類の濃さで順番に手間と時間をかけて鞣す。いわゆるベジタブルタンニングダイという方法です。うちの専門はゴートスキン。国内外からの評判は現在も高いのです」と、教えてくれたのは鈴木由成さん。

鈴木さんは、今でこそ往時の勢いはないが、製靴業の本場浅草で皮の鞣しや靴の輸入代理業をしている(株)スズキの次男坊。幼い頃から靴作りに関する英才教育を施されたようで、靴のデザインや海外の靴工場の情報、さらに革や靴のクオリティを見極める目と腕を備えたこの分野のオーソリティだ。

なにより靴について熱心に語る口調の背後には、靴作りに対する『愛』があるのだ。それはおそらく、自分の携わる仕事は、24時間前に生きて動いていた命の上に存在している、ということを見て育ってきたことと無縁ではあるまい。鈴木さんは仕事に対して、優しさと強さを持つ人なのだと思った。

シューズ愛にあふれる鈴木由成さん/Photo:Shuhei Toyama

その鈴木さんが約2年半前から力を入れているのが、販売価格2万2000円から、というグッドイヤーウエルテッド製法の靴、GORDON&BROSの代理販売業である。

「GORDON&BROSは1988年にドイツのデュセルドルフで創業しました。しかしそこに資本を投下したのは、インドで革の鞣しや靴の製造をおこなっている大企業なんです。偶然、父が若い頃に、その会社へ技術指導に行っていた縁があって、アジアでの販売権をまかされたわけです。インドで製靴業を営んできた彼らは、ヨーロッパ市場で自分たちの靴を売ることに誇りに感じている。ドイツ人の社長をたて、イタリア人のデザイナーを雇いGORDON&BROSを立ち上げたのです。そのため価格設定も、欧州での普及を優先し、あり得ないほどお買い得になっています」

たしかに、アッパーはイタリアのインカス社のカーフを使い、中底と外底はアルゼンチン産の塩浸けした牛皮をイタリアでタンニン鞣し。靴のはき心地に影響を与えるコルクの材料も選び抜いている。これらの材料や副資材のコントロールとデザインなどのソフト面はドイツでおこない、グッドイヤーウエルテッド製法による靴の組み立ては、人件費の点で有利なインドの工場が担当するシステムだ。

この作りでこの価格は驚異的。おそらく、市場もっともお得なグッドイヤーウエルテッド・シューズといっても過言はないだろう。

グッドイヤーウエルテッド製法の断面。質の良いコルクと大きめのシャンクが見える/Photo:Shuhei Toyama

「でもね。まだ進化の余地はあるんです。ぼくらもインドの会社も、同じタンナー出身。牛などの生育を見極め、皮から革を作る、いわば3Kの仕事です。だからこそ、加工から染色の工程を経て、靴製品としたときの品質。さらには使い込むことで、育てる楽しみがもてる革製品にしたいというこだわりは、誰よりも強く持っているんですよ」

鈴木さんは、この2年の間にアッパー革の改善に取り組んだり、Uチップやローファーのディテールに注文を出すなど、日本らしい細やかな心遣いを製品に加味することを心掛けてきた。

「サイズ展開は、これまでより1サイズ小さいものを加えて39から43までにしようと考えています。ワイズはすべて2E。ラストは甲高を考慮したレヴェトと、それより細みのファヴィアンの2種だけでしたが、より日本人にフィットするのではないかということを考慮して、甲周囲の寸法はレベットと同じで、底の幅を少し広げたルカを投入する予定です」

筆者は、インド、ドイツ、そして日本の靴作りの知恵を集めたGORDON&BROSの今後の進化に期待したいと思う。

フルブローグのバルモラル・オックスフォード/Photo:Shuhei Toyama

最後に、お洒落な身なりで靴を販売するショップスタッフに一言。「アッパーはイルチアだ、ソールはデュプイだ」と蘊蓄を語るのは結構なこと。しかしそれに加え、それらの美しい革がどのような過程で製造されてきたのか、その川上の現場を訪れることをお勧めしたい。きっと靴への愛がもっと深まるはずだから。

Photo:Shuhei Toyama